今月のコラム


燈燈無尽

五十嵐安夫

このコラムは、8月23日付け日経新聞の「交遊抄」から、一部を抜粋し、不許可で掲載しているものです。五十嵐先輩の剣道指導会にかける情熱の原点がここにあるようです。

昭和40年代から平成にかけ、早稲田大学剣道部の師範に、渡辺敏雄(範士八段)という短躯ながら火山を思わせる激しい男がいた。故あって文無しとなったときも、口笛で街を歩き、「なあ、さもしく生きるなよ」と説いた。名手も鈍才剣士も強烈な影響を受け、稽古に集った。

渡辺師範の口癖に、「燈燈無尽」があった。「良き教えを人にも教えよ」と「維摩経」の「無尽燈」を引用した。すなわち、1つの灯を別の十の灯に点火し、さらに百、千とともしていけば明るく輝き消えることがない。

こうした師範に鍛えられたことを仲間らと語り継ぎ、師のように、絶頂にあるときも谷底を歩むときも、堂々と陽気でありたい。


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