特別企画
まいまいひめ伝説
《まいまいひめで待ち合わせたカップルは必ず結ばれる》
工事中
この像をご存知でしょうか ?
長岡市の中心商店街のはずれに、ひっそりと忘れ去られたように立っています。
ここは、昔「パンのうちやま」と「紅屋重正」に挟まれた、変則交差点の中心にあったグリーンベルトの中に立っていました。
私の記憶では、台座の部分が噴水になっていて、「うちやま」から始まる大手通りの賑わいを象徴していたように思います。
ところが、モータリゼーションの発達で、大手通が衰退してくると、いつしか忘れ去られてしまったようです。
平成14年になって、変則交差点の解消工事が始まり、道路が「紅屋」さん側に移動しました。「まいまいひめ」は北側にできた余地に、ひっそりと忘れ去られたように残されています。
この北側余地は、新しいポケットパークとして、平成15年に生まれ変わる予定になっています。そこで、このミニ公園をどのようなものにしたいかという市民の声を集めるために、3回にわたってワークショップが開かれました。
この会では、地域の住民や、大学で都市計画や街づくりを研究している学生たちが集まり、いろいろな意見が出されました。
その中には、壮大なスケールのものもありましたが、財政難の時代であることは衆知の事実ですので、現実的な対応として、花と緑に囲まれた癒しの公園にしようという方向に集約されてきました。
しかし、多くの人たちの注目したのは、まいまいひめでした。せっかくあるものを撤去してしまうのは、もったいないし、リニューアルすれば輝くはずです。
そこで、この「まいまいひめ」はどういうモニュメントなんだろうと、質問が飛び交います。
ところが、不思議なことに、地域の住民の皆さんも、はっきりしたことは知らないのです。
わかったことは、昭和20年8月1日の夜長岡は空襲で焼野が原になり、多くの市民が犠牲になりました。中でも被害が集中したのは、この像のある表町・本町・上田町地区でした。
そこで、2度と戦争をしないようにとの願いを込めて、「平和像」がこの場所に建てられたのです。
ところが昭和30年代になると、復興が進み大手通もにぎやかになりました。戦災復興都市であることを、よりアピールしようということになり、平和像は駅前に移転することになりました。
その時、今まであった場所の方では、盗られてしまうような被害者意識から、平和像の代わりを求める声が上がり、昭和33年にこの「まいまいひめ」像が建てられたということです。
「まいまいひめ」は、市内の彫刻家、広井吉乃助さんの作によるもので、当時市内の小学生に公募して名前が決まったということです。
しかし、なぜカタツムリの背中に姫が腰掛けて笛を吹いているのでしょう。
これは昔話から題材を得ていると言われています。
働き者のかたつむりが、お金持ちのお姫様を嫁さんに欲しいと思い、いやがるお姫様をとうとう手に入れることに成功すると、かたつむりは立派な若者に変わったというお話だったと思います。
昔話特有の話の展開ですが、若者と姫が結ばれるという愛の物語であることには違いありません。
きっと「まいまいひめ」像には男と女が結ばれるという縁起のいい力があるに違いありません。昭和30年代から40年代にかけて、大手通りの賑わいとともに、多くの若者達が噴水のあるこの像を眺め、そしてカップルになったに違いありません。
21世紀を迎え、時代は高度経済成長の世の中が完全に過去のものになり、停滞もしくは衰退の世の中になりました。追いつけ追い越せで働き、マイカーを乗り回して、もっと早くもっと遠くへと走ってきた時代が過去のものになろうとしています。
街も郊外に拡大するだけでなく、中心部の衰退という置き土産を残してきましたが、新しい時代には、古いものや置き忘れられたものにも目を向けて、ゆっくりと人間の足で歩くことにも、改めて価値を見出そうという人たちが増加しそうです。
そんな新しい時代のさきがけとして、大手通りの入口に新しい公園が整備され、「まいまいひめ」が40数年ぶりに、美しく生まれ変わろうとしています。
この公園が、新しい若者たちの出会いの場となり、また地域の人たちのスローライフの象徴として、徒歩の駅 (walkig station) として、新しい価値を生み出してくれることでしょう。
「まいまいひめで待ち合わせたカップルは、必ず結ばれる」という伝説が生まれる日が来ることは、そう遠くないはずです。
「まいまいひめ」で待ち合わせた2人は、古い長岡の町を散策しするかもしれません。ズラリ並んだお寺、慰霊塔のある平潟神社、大正時代の蔵、平和像のある平和の森公園、山本五十六記念館、記念公園、カトリック教会、そして大手通に行けば、米百俵国漢学校の碑、大手門もこのあたりです。もちろん買い物だって、夜の街だってすぐそこです。
周辺から自転車で乗りつけた人たちは、ここで自転車を置いて、大手通に出かけます。
また、ここで一服して、シンボルロードを信濃川に向かってウォーキングする人たちもいます。
いろいろな目的の人たちが、この公園で出会い、それぞれに通り過ぎ゚てゆきます。
しかし、この公園を彩る美しいお花や緑に心を癒され、また茜色に染まる西の空をバックにした「まいまいひめ」のやさしいシルエットや、噴水の中に幻想的に浮かび上がる「まいまいひめ」は、それぞれの人の心に、忘れられない思い出を残してくれるでしょう。
この街で青春を過ごした若者は、どこで暮らしても必ず心の中の「まいまいひめ」を思い出すことがあるでしょう。青春の甘ずっぱい思い出とともに、まいまいひめのシルエットは、一生の心の宝になるかもしれません。
なんて素晴らしいのでしょう。こんな小さな公園が、たった一つの像が、一生の宝を残してくれるのですから。
そして、忘れてならないのは、この公園をいつも美しく快適にしてくれるのは、行政だけではなく、「まいまいひめ」を愛する市民や、地域の人たちなのです。ほんの少しお返しをしたいという気持ちが、ボランティア活動につながっています。
年に一度、公園が美しいお花に彩られる頃、「まいまいひめ」を愛する人たちが集まって、年齢の差を越えて交流をします。こうして多くの人たちの、それぞれの思いを受け継ぎながら、この公園を中心にした、新しい町並みが作られてゆくのです。
そんな美しい夢を、あなたも見てみたいと思いませんか。