早暁の谷川連峰
台風の近づいた8月のある日
無言は苗場山頂に幕営した
あの有名な深田久弥が名著「百名山」の中で
麓から山容を見ることができないこの山を
次のように著している。
「どんなに隠れようとしても、優れた個性は、世に表れるものである」
無言は感動した。
確かに、苗場山に登ると、一面の傾斜平原に出て、
どこが山頂かもわからない。
尾瀬の湿原を歩くようなものである。
しかもここには、
秀麗な燧ケ岳の姿はない。
至仏山ののどかな姿もない。
だが夜が明けて、ご来光を迎えに湿原の東の端に立つと、
忽然と視界が開けて
見事な谷川連峰が姿を現した。