鈴木商店の倒産と金子直吉

 

ユース氏より、鈴木商店の倒産と金子直吉について書けとの激励をいただきましたので、書こうかと思いますが、知識が全く欠如していますので、あくまで私の私的感想というアプローチにとどめたいと思います。

そもそもは、NHKの番組「その時歴史は動いた」で放送されたものを、ユース氏が見たことから始まります。実は私も見てしまいました。それというのも、私の知識では、昭和2年の金融恐慌の時に鈴木商店が倒産して、銀行もバタバタつぶれたということしか知りませんでした。考えてみれば、これは高校日本史の世界ですが、授業では昭和史はご法度になっていますし、経済史はほとんど注目されていないからです。これが関が原であれば、各種のドラマや歴史小説でいろいろな知識がはいるのですが、昭和の経済となると、あまりエンターティメントとしては、存在していないからです。

さて、ここでは皆さんも私同様に知識はないものとして、話を展開します。

まず鈴木商店とはなにかですが、これは神戸製鋼や日商岩井、帝人、サッポロビールなどのの前身と考えてください。そう考えるとリアリティが増してきます。

もともと鈴木商店というのは砂糖の取引をしていました。ここに金子直吉が番頭として入ります。彼は投機的才能にたけ頭角をあらわしますが、台湾の樟脳の投機に失敗して経営危機となります。その後鈴木の旦那は死に、未亡人よねと直吉の二人三脚のサクセスストーリーが始まります。ちょうど第一次世界大戦が始まり、投機の才能が発揮され、またたくまに鈴木商店は三井や三菱を凌駕する財閥に成長します。

当然、当時の鈴木商店には多才な人材が集まりました。例えば、西武グループの総帥堤康次郎や鳩山一郎などもここにいました。

ところが戦争が終わると、時代は逆流します。軍需関連は全く止まり、不況に突入しました。そのため鈴木商店は莫大な借金を返済不能になります。こうなると貸したほうの銀行も危機になります。特に台湾銀行(当時は日本でした)は総貸出額の半分を鈴木商店に貸していましたから、鈴木商店の破綻は銀行の破綻を意味しました。直吉はそこをついて、融資の継続をさせましたし、政府に対しても鈴木商店が破綻しないように支援を迫りました。なにしろ、当時の国家予算の1割を超える債務を鈴木商店は持っていたのです。今で言えば、国家予算は170兆円くらいでしょうか。その1割強となると20兆円以上となるわけです。あのダイエーの有利子負債は2兆円でしたから、いかに大きいかわかるでしょう。

結局当時の政府は痛みの先送りをしていましたが、国会で大蔵大臣が東京渡辺銀行の破綻を発表したのを機に、金融恐慌が始まり、支えを失った鈴木商店は倒産するのです。

さて、この話にどんな意味があるのでしょう。ユース氏の話によれば、簿記の先生が「鈴木商店の倒産」について書けば論文が書けると言ったというのです。これは鈴木商店が、複式簿記ではなく単式簿記をしていたからだというのです。これについては、ユース氏の解説をお願いしたいと思います。

さらに私が感じたことを言えば、鈴木商店が合名会社だったことがあります。当時でも当然株式会社はありましたが、株式を公開すると株主に対する経営責任が発生しますが、それは煩わしいと考えた直吉は合名会社のままで、独断専行の経営をしたのです。あくまで親方鈴木よねのために経営したともいえるでしょう。資金はすべて銀行から借りたということです。これは現在の常識からすれば、高金利の金融だということになりますが、これが投機家、ギャンブラーの所以でしょう。

それと、「人はその長ずるところによって身を滅ぼす」ということです。戦時中の投機で成功した直吉は、戦後の環境激変の中でも、積極的に投資を続けて滅びました。積極派の人が反対の行動をとることは難しいのです。逆もまたしかりでしょう。

また、鈴木よねとの関係で言えば、直吉はいわゆる「滅私奉公」タイプの人間だったのだろうということです。

リーダーには独裁タイプと滅私奉公タイプが存在します。独裁タイプというのは、そごうの水島氏や新潟中央の大森氏がこれにあたるでしょう。もちろんダイエーの中内氏や多くのオーナー経営者がこれになります。

一方の滅私奉公タイプというのは、この場合のように、未亡人社長と番頭というコンビでよくみられます。このタイプの人は、私利私欲は弱いのですが、人のためとなると何でもしてしまうのです。で、実はこのタイプが最も強引かつ凶暴なのです。例えば宗教家などはこの例です。自分にとっての神様のためなら、できないことはないし、冷静な判断は欠落するのです。

さて、現在も不良債権の総額をめぐっていろいろと取りざたされていますが、当時もなんら変わりはなかったのでしょう。大丈夫と思って貸したものは不良債権とは認識しませんし、だめだと思いつつ貸したものは公表できないでしょう。ですから、自己査定というのは正しいはずがないのです。これについて、この3月決算で東京三菱銀行の不良債権が大幅に増加したことが話題になり、やはり自己査定はいいかげんだということから、みずほグループの査定は各社まちまちで急増するとの憶測が流れています。

かくして今日と同じような経過を経つつ、金融恐慌へと突入し、鈴木商店は倒産したのです。今日の問題は、金融恐慌を回避しつつ、不良債権は償却するという点が、当時とは違うのでしょう。

さて、会社の決算内容がどうであるかは、決算書類をみればわかるといいます。最近では、バランスシート不況なる言葉も一般になりました。私は商学部に入学した時、商学部に入ったからには財務諸表くらい読めるようになりなさいと言われました。しかし、成績は優でしたが、まったくわかりませんでした。それは、必要もなかったし、関心もなかったということでしょう。

ところが、最近では会社が倒産する時代になり、ある意味では財務諸表がわかりやすくなりました。決してよいことではないのですが、つぶれるかどうかという見方をするようになったからです。そこで、私としてはあくまで会計の知識がない人を対象に、財務諸表のポイントを次回に解説したいと思います。

 


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