財務諸表を読む(会計ビッグバン)
今回は、財務諸表の読み方です。といっても、諸表というほどの表があるのでしょうか。一般的に新聞で見かけるのは、あくまで貸借対照表と損益計算書の2表だけです。そのうち、損益計算書はわかりやすいものですから、ここでは省略します。営業利益、経常利益、当期利益がそのまま表示されています。
ところで、なんで今さら会計なのでしょうか。それは、現在の不況の一因として会計のビッグバンがあげられるからです。会計ビッグバンというのは金融ビッグバンと同じく、国内ルールを国際ルールに変更する過程でおこる、会計の大混乱です。
具体的には、2000年3月期に連結決算と税効果会計の導入がありました。ご存知と思いますが、証券スキャンダルの時に有名になりましたが、「とばし」という技によって、本社の失敗、赤字を子会社、関連会社に売却すると、本社は失敗を隠蔽でき、子会社は赤字を抱えますが、子会社の決算はそもそも公開の対象になく、親会社の信用で金融を受けていますので、万事まるく収まるというものです。
これでは、会計の本質的な使命である、投資家や金融機関、税務当局に対する説明責任を果たさないことになります。そこで、証券取引法の元にある株式公開・上場企業には、子会社、関連会社との連結決算を公開することが義務づけられたのです。
税効果会計については、省略します。
2001年3月期には、退職給付会計、金融商品会計の導入、販売不動産の減損処理の厳格化が導入されました。これによって、社員をやとうといつ退職しても払えるたせけの退職給与引当金を積まなければならなくなりました。これは日本のように、今まで終身雇用、年功序列給を維持してきた立場としては、実にやっかいなことです。結局、正社員を採用したくないという方向で企業は対応することになります。
減損処理については、、来年以降も関係するのですが、もともとわが国の会計制度の立場が安全第一を考えていましたので、右肩上がりの続いた55年間には、取得原価で記入することが安全だったわけです。ところが今日のような状況になりますと、取得原価がバブル価格で、その後は値下がりをしていますから、取得原価は高く現在時価は安いということが、かなり決定的な経営不安要因になってきました。これでは、決算報告を見ても安定度がわからないのです。
もっとも、わからないという点では、今までもわかりませんでした。ただ、安く計上されている資産でもバランスがとれているのであれば、問題はなかったというに過ぎません。
2002年3月期には、持ち合い株式の時価評価も始まります。これも同じことですが、従来は他社の株式を保有していても、ほとんどが取得時より上がっているため、現在時点の含み益を厚くするだけで、経営の安定度を心配する必要はありませんでした。しかし、株式も取得価格から下がっている時代になると、取得価格の計上では現在の資産の実体よりも多くなってしまいます。これでは、投資家の保護を第一とする目的を維持できません。
そこで、国際ルールに合わせて、時価評価するわけですが、そうなると決算結果の急激な悪化を招くことが予想される企業は、持ち合い株の解消を図ることになります。つまり、売却です。企業は売りたい、個人は株価低迷、先行き不安で買いたくない。かくして株価は下がります。株価が下がると、さらに持ち合い株の放出は多くなります。
こういった一連の会計ビッグバンは、企業会計の構造改革を表しています。小泉総理が「構造改革」を訴える以前から、金融や会計は構造改革を始めているわけで、この流れについて来れない企業に退出を願うというのが、構造改革にほかなりません。ついていれないから待ってくれ、例外を認めてくれ、保護してくれという声を切り捨てるということです。
さて、貸借対照表ですが、バランスシートという方が一般的です。ユース氏のように簿記を理解している人にはなんでもないのですが、複式簿記の貸方、借方を左右に対照させたことからこの名前がついています。
最近のマスコミで聞くのは、不良債権のオフバランス化とか、不良債権をバランスシートからはずすという表現です。もちろん同じことですが、専門家にとっては最も重要で、素人には最もわかりにくいのが、このバランスシートです。
バランスシートは決算日の財政状態を表します。損益計算書は会計期間の損益状態を表しますから、時間的な捕らえ方が違うわけです。まずは具体的な例を見てみましょう。
つづく