国民年金を語る
国民年金の制度をご存知でしょうか。
サラリーマンの方はおそらく、あまり知らないのではないでしょうか。それというのも、選択の自由がないというのが最大の理由だろうと思います。考えたってはじまらないのですから。
ならば自営業者はどうでしょうか。こちらは強制加入とはいえ、自分で払わなければならないのですから、多少は関心があるようです。とはいっても、制度が複雑すぎて訳がわからないというのが、本当のところだと思います。
さて、かくいう私も、数年前までは全く関心がありませんでした。日本経済の危機とともに、多少関心をもつようになりましたが、とにかく制度が複雑で、とりあえずパスという感じでした。
ところが先日、国民年金基金に関する懇談会というのに参加することになり、少し理論武装しておこうということで、調べてみました。
平成3年に制度が変わり、年金制度は二階建て、三階建てになったということは聞いたことがあると思います。
一階部分が国民年金であり、強制加入です。二階部分は、サラリーマンは厚生年金、自営業は国民年金基金になります。さらに大企業には厚生年金基金の三階部分がありますが、これが最近、解散が相次いでいます。また、公務員の場合は2,3階部分が共済年金になります。
年金制度はもともと、老後の最低限の生活を保障するために始まったわけですが、農家や自営業者対象の旧国民年金が、経営困難になったために、救済合併的に制度改革がなされたわけです。
ところが、現在ちまたでは、年金は破綻するといって掛け金を払わない人が増えています。また、払ってはいても、あるいはサラリーマンは払わされていても、もらえるかどうかわからないという人が多くなっています。
これほどまでに制度に対する不安が大きくなっているのは、国にも責任があるだろうと思うのです。
確かに日々報道される政治ニュースによって、国民は今まで知らなかったことを知ってしまいました。例えば、いらないものを作る公共事業が赤字を垂れ流すとか、簡易保険の金が赤字特殊法人に融資され、回収があやしいとか。
これらは結局国民の不安心理をあおっています。もちろん、真実を知らせた上で、政治改革、構造改革をすすめようというマスコミの意図があるわけですし、政治家の戦略でもあるわけですが、知らされた国民には不安という不幸が訪れるわけです。これでは、「知らされない権利」を要求する気持ちもよくわかります。
年金制度が破綻するという根拠は、高齢化により、もらう人が増加して、払う人が減少するということです。さらに、どうせ損だからとか、もらえないかもしれないから払わないという若い人が増えて、一層収入が減少しているからです。
ここまでは真実だと思います。しかし、払わない人はどうするのか、という面も冷静に考える必要があると思います。多くの人は民間の年金保険に入るとか、預貯金するといいます。
しかしこの方法は正しいといえるのでしょうか。
年金は20歳の人にとっては45年先の、3,40代の人でも2.30年先に備えるものです。今から20年前を思い出して欲しいのですが、あの頃の為替レートは240円前後であり、日本がアメリカを越えるほどのバブル時代が来ることを予想できたでしょうか。また、今日のようなデフレ、失業時代を予想できたでしょうか。銀行や生命保険会社が破綻するのも、デフレを予想できなかったからです。
さらに今年金をもらっている人たちは、焼け野が原になった日本が今日のようにな豊かな社会になることを予想したでしょうか。全く予想できなかったはずです。つまりは未来予測は誰にもできないのです。わかったように説明している業界人にしても全くわからないのです。
ただ戦後50年間にわたり、日本は成長経済を続けてきたおかげで、全てがうまくいったのですが、その後の10年間ですべてがおかしくなりました。今後は少なくとも50年間にわたる成長はありえないと思いますので、全てがうまくいくはずがないというのは当たると思います。
もっと近未来予測をすると、デフレは全てを破壊するため、否応なしにデフレ対策と称して、インフレ政策を採らざるをえません。あらゆる禁断の政策が、緊急対策として採られることになると思いますが、これは全てインフレの種まきです。ゆるやかなインフレが目標ですが、歴史が教えてくれるのは強烈なインフレです。ハイパーインフレです。
そんな時代には個人的な運用や、預貯金は価値を保てるでしょうか。残念ながら、インフレは貨幣価値を下落させます。今、土地なんか金にならない、株はダメと言っているのと同様な状態に、貨幣や金融資産がなることを意味しています。
どんなに念入りに検討しても、おそらく成功するのはほんの一握りの運の良い人になるでしょう。そしてその人は、むしろあまり検討しない人かギャンブラーだと思います。念入りに検討する人は高い確率で失敗しないだろうという程度です。
現在すでに、金持ちたちは資産の一部を、外国債権や金に移し始めています。円の暴落にそなえているわけですが、外国といってもドルが絶対なわけでもなく、ユーロが絶対でもなく、いろいろと考えた結果、アルゼンチン債をつかむような人もいるはずです。いろいろなところへ分散投資をして、相撲でいえば8勝7敗か9勝6敗をめざしているのです。
年金制度がない場合には、絶対的な貧困層が拡大し、社会が不安定になったり、福祉のために税金が投入されることになります。そうならないようにするために、税金を投入しても制度を維持して、最低限の生活を保障するのが年金制度です。
ですから、どんな変化があっても最も安全なものなのです。こう言うと、国が破綻すればダメだろうと言うのですが、ご安心下さい。国が破綻すればダメですが、その時は国内金融資産は全てダメです。外国に逃げるしかありません。しかしだからといって、全財産を外国に移す人もいないでしょう。
ですから政府が説明するように、年金は最低限確保して、さらにプラスする部分は自己責任で検討するべきなのです。
国会では構造改革の痛みを緩和するためのセーフティネットはどうするのかという野党の追及がきびしいわけですが、セーフティネットの基本は年金制度や失業保険制度などであり、それが本当に安全なのかと不安視する人々が多いという現実は、やはり政府の説明責任の欠如と言っていいでしょう。
もちろん現在ある制度については不透明な部分があるわけですので、族議員の排除などによって透明性の高い制度に構造改革することは必要なことを付け加えておきますが。
妙に年金の肩を担いでしまいましたが、国民年金基金の懇談会では、月に67000円の国民年金では足りないという人のための制度であり、強制加入はできないものの安全性は一番高いということをアピールしなければならないと、強烈に主張してきました。
それと同時に、制度の複雑さが問題なのだと主張して、簡素化をして準強制加入するくらいの気概で臨むべきであると、主催者の意図をはるかに超えた主張をしてきました。
主催者である広告会社は、現在5パーセントしかない加入率をあげるための、広告PRをどうすればいいかを調査するのが目的でしたから、制度に踏み込まれても困るのですが、言うべきことは言わなければなりません。
4月からは確定拠出型も加わるのですが、これなどはどこの何に投資をするのかまで自分で指図をするものです。つまりオーダーメードの年金なのです。そんな手間のかかるものは、民間に任せるべきで、国が関与する基金は、プラス50000円を確保したい人はこれという程度にするべきです。
制度が複雑なために、説明を求めると説明員が県庁からやって来て説明するのですが、半日聞いてもわからなかったと出席者のパン屋さんは言っていました。民間と違って加入させるための説明をするわけではない、という点は好感を受けていましたが、半日説明しても成果がないというのは考え物です。
やはり制度を簡単にして、全労災や県民共済のように、チラシと銀行のタイアップのみで加入者をふやす方向がいいのではないでしょうか。
今回の懇談会は、国民年金基金について何かしゃべって欲しいという依頼でしたので、出席者のパン屋さんと、美容師さんの女性2人ははバンバンと語りました。私は依頼主の要望とは別次元で持論を展開しました。床屋さんと表具屋さんの男性たちはボソボソと話しました。わずか5人ばかりの集まりでしたが、女性の時代なのだなぁと実感した次第です。
さて、長々と書いてしまいましたが、私はここで国民年金や基金のPRをするつもりではないのです。あくまでも将来は誰にもわからないというのが過去の教訓であり、保険会社などの営業が薦めるように、すべてを予定してもほとんどの場合は予定通りにはいかないものなのだ、ということを強調したいだけなのです。