民主主義と構造改革

次のようなメールを頂きました。今回は往復書簡の形です。

今日は衆議院新潟5区補選の告示日でした。 予想どおりの面子が立候補しましたが、私は星野行男の演説にややびっくりしました。 「体力が弱っている日本経済に大型補正予算のカンフル剤が必要だ」というくだりです。 あれほどゼイキンをつぎ込みながら経済が回復しないのはここ2・3年ではないはずです。 が、あのヒトの頭の中にはまだ旧態依然とした信念みたいなものがあるのでしょうか。   そこで、お願いです。大型補正予算が現在の日本経済のカンフル剤足りえるのか? ご講義いただけたらと思います。  

ご指摘のとおり、過去十年間のカンフル剤の結果が今日の姿です。  

この間に起きたことは、建設業界の肥大と、日本経済全体の公共依存体質です。今にして思えば、この間に規制緩和と新産業立ち上げ推進を図るべきだったということでしょう。

志は確かにあったはずです。殿さまの日本新党以来、規制緩和による新日本創設の試みはされて いますが、規制緩和の負の効果、すなわち既得権保護の為に、税金 がつぎ込まれていったのです。もちろん大蔵省は偉大でしたから、税制の多年度中立の立場から、一方では増税をしたわけです。これが見事に日本を活力のない、公共依存型の土建国家にしてしまったといえるでしょう。  

さて、大型補正はカンフル剤にはなりうるのか。もちろんなるはずです。しかし、氏の信念は困った人を助けたいということです。構造的に延命困難な人を延命する生命維持装置にはなるでしょう。

しかしこれでは、構造改革は進みません。不良債権処理が失業とデフレを招くから、 補正で救済するわけですが、その前に新しいスタイルを示さなければなりません。新産業はもちろんですが、旧産業の業界再編も、自由にまかせていると消耗戦を続けるわけですから、政府が関与して整理するくらいの必要がある、と斉藤精一郎教授は主張しています。そして、新しい形の中に補正予算を投入するのです。

しかし、補正を要求する声は全て古い形の中から出てきます。民主主義の政治家がここを断ち切 れるか、難しいところです。  

ちなみに比嘉教授がEM菌を開発した当初、あの因幡修先生がいち早く注目したので、政治の後押しを頼みましたが、それは政治家にはでき ないと断られたそうです。EM農法が普及すれば、農薬屋も肥料屋も困る。既存の業者が困ることをするのは、政治家には出来ない。政治家は落ちればただの人以下だから。というわけです。あの角さんに正義の鉄槌 を下した因幡氏ですら、選挙が一番怖かったのです。  

ところが、この不良債権処理を小泉・竹中ラインは2年以内に完了するというのですが、高鳥修先生は30年くらいかけてやらなければ痛みが大きい、と言っています。ものの本質を無視し、後援会の老人の方しか見ていないということが、よくわかりました。  

一方新産業の立ち上げについては、経済特区構想が官庁の反対で90パーセントがた却下され、完全な骨抜きになろうとしています。この世の中で誰が一番強いのか、それは官庁だということです。日本で一番優秀だと自負する官僚が、自己増殖を続けてできあがった官庁、特殊法人連合部隊に、単身で切り込んでも話しになりません。政治家が一丸となって当たって初めてどうかというものです。

しかし、政治家のうち抵抗勢力と称されるグループは、官庁に取り入りたい業界の口利き窓口に 過ぎません。さらに各政党は足の引っ張り合いに終始しています。 これではおよそ官に対抗できるはずがないのです。  

さて、ならば政治家が一丸となったらどうか。これは現実に戦前存在しました。大政翼賛会です。これが戦争への道を決定的にしたわけです。

今はどうかというと、このまま構造改革が進まず、経済はさらに悪化、失業率も20パーセントに達し、財政は完全に破綻、年金破綻というところまでいくと、再び大政翼賛会ができて改革断行という筋書きになります。

実は現在の産業構造は戦前の大政翼賛会の時に出来上がった枠組み、40年体制なのだそうです。それ以来一貫して官庁は業界を保護し、大成功を収めましたが、その体制が限界にきても、業界を再編することは不可能のように思えます。官庁の縄張り争いが根底にあり、 官庁は縄張りの業界を温存するからです。  

また不良債権処理については、竹中特命プロジェクトチームに豪腕木村剛氏が入ったことで、株価が暴落しましたが、木村氏は自らのホームページで、中小企業の貸しはがし事例募集を始めたところ、予想以上に集まったので、金融庁に報告するとともに、金融庁でも直訴を募集し始めました。大手銀行が大企業の不良債権に手がつけられないことから、業績も黒字、担保十分、社長の個人保証も十分という中小企業の債権も、なりふりかまわず貸しはがしている様子がうかがえます。そしてその結果を個別の銀行につきつけて、やるべき不良債権処理を促して、健全な中小企業を守るというあたりまえのことを、政府が直接踏み込んで行わなければならないようです。  

官庁もしかり、大銀行もしかり、みんな政府の指導があっても、いかにごまかしてすり抜けるかだけに腐心しているようです。構造改革の難しさがよくわかる話ですねぇ。

ちなみに小渕首相の時に話題になった信用保証協会の緊急融資にしても、私はお世話になりましたが、政府の意図は健全な中小企業の資金繰りを守るためでしたが、実際は銀行が既存の債権を振り替えて、保証を取っただけでしたので、利率が低くなって喜んだだけの私たちや、返せる見込みのない企業の貸し倒れを国につけかえただけだったようです。  

ああ、長くなってしまいました。 星野老人はいい人だと思いますよ。私も投票したことがありますし。しかし、もう彼の頭は過去にしか向いていないようですねぇ。 しかたのないことです。  

 


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