景気対策と地域振興券の経済学

平成十一年春、地域振興券が配布されました。

我らが調整派の大御所オブチさんが、公明党との連立を保つために、その公約を丸呑みしたものですから、発表されるや否やエコノミストからボロクソの評価をされたのは記憶に新しいところです。ではいったい何が問題なのでしょうか。

一般に景気対策というのは、不景気だからとられるわけです。不景気というのは、仕事がない、売上がないという経済活動が低調な時に認識されるものです。

マクロ統計では、GDPがマイナス成長ないしゼロ成長、もしくはそれ以前に比べて成長率が鈍化した時に認識されます。GDPというのは国内総生産のことですが、これは国内の付加価値の合計です。

気をつけたいのは、各企業の付加価値が集計されるのはもちろんですが、給料も集計されるのです。日本では、年功序列や春闘などにより、毎年給料は上がるのが普通と言われ続けてきました。これが崩れ去ったのはご存知のとおりですが、一人一人の給料が毎年上がれば、同じ状態でもその合計は増加するということです。GDPは成長するのです。ですから、マイナス成長というのは余程のことということになります。

さて、成長率を増加させるためには、経済活動を活発にさせなければなりません。通常そのためにとられているかりに企業の付加価値、粗利益がゼロ生長になったとしても、個人の給料が増えれば政府の政策は、公共事業と減税です。また日銀は金融政策を実行します。

公共事業は国が民間に仕事を発注することですが、国の金を強制的に民間に回すことになるので、正しくは政府支出といいます。

一般に土木建設工事が多いのは、そもそもこの政策で大恐慌を乗り切ったときにケインズが主張した政策で、支出規模が大きい上に資材等への波及効果が大きく、労働集約的なために失業対策として効果的だからです。

しかし現在では、この政策の効果が疑問視されています。というのも、日本では公共事業における土地収用経費が大きいのですが、土地代は建設費と違い、地主の懐に入るだけで波及効果が小さいのです。

さらに知られているように、ゼネコンの談合ひいては政治家のピンハネが大きいというのも社会問題となっています。

また政府の支出増加は財政悪化をもたらします。もしすぐに景気が回復して、税収が上がるならばいいのですが、現実にはタイムラグがありますし、赤字財政は国債の発行によってまかなわれるため、将来の増税が予想されて効果がないという説もありますし、国債の発行は市中金利の上昇を招くので、景気にマイナスにはたらくともいわれています。

今回の対策では、今述べたような理由により、これ以上の国債発行が不可能であるとして、減税政策をとるように多くのエコノミストは主張しました。

減税政策では、公共事業のデメリットがないだけでなく、所得税の重税に悩む高所得層の働く意欲をそがない効果、ひいては国内空洞化の対策にもなるとして、80年代のアメリカがとったサプライサイド経済学の導入をめざしたものです。

サプライサイドとは供給側すなわち企業が喜ぶ政策によって、企業に活躍してもらおうというものです。これがアメリカで大成果を上げたのは有名になりましたが、日本もアメリカの真似をして、財政再建を目指すべきだという主張は、平ちゃんをはじめとするエコノミストの主流派でした。

ところが、これは金持ち優遇政策だとして野党は反発します。そこで、低所得者にも恩恵があり、地域経済の活性化にも寄与するものとして商品券構想が出ました。というのも、日本では課税最低額が高く、サラリーマンの三割は所得税を払っていないのです。税金を払っていない人には減税はないわけですから、低所得層には恩恵がないわけです。そこで公明党が主張したものです。

現在の弱者は街の商工業者が多いため、どこでも使える商品券でなく、その町でしか使えない地域振興券という形にして、景気対策と同時に地域振興政策も兼ねてしまったのです。

これが実際にどれだけの効果を上げたのかは定かではありませんが、私の実感としては、多少の下支えにはなったようです。

但し、子供を対象にして出された分は、三月だったこともありそのほとんどが学用品の購入にあてられたようです。学用品はかなり必要不可欠な支出の要素が強いですから、振興券によって購入が増大したとは言いがたいものがあります。それでも倹約できた現金支出が他の消費に回れば、やはり効果があることになります。

とはいえ、エコノミストが主張するように、券の印刷・発行に相当の経費がかかっていますから、やはり景気対策としては邪道でしょう。

ところで皆さんはこの振興券をどのように使ったでしょうか。

ちなみに私は、オブチストの会会員ですから、オブチさんの応援のために最も正しい使い方をするべきだとして、その月のうちに一眼レフカメラ・キャノン・ニューイオスキッスの底値買いに充ててしまいました。

底値で買うことは波及効果が大きいのです。というのは、販売価格に占める原価率が高いと想像されるからです。原価というのは他の業者への支払いになりますから、それが大きいことは金の流れが大きいということになるわけです。

私はこの時点で正しい使い方をしたつもりだったのですが、実はこのカメラは台湾製だったため、日本製にしておけばよかったと少し反省しました。

ちなみにこのカメラはほとんど使ってない上、最近ではデジタルカメラのおもしろさに気づき、叩き売って代えちゃおうかなどと考えてもいます

。悪銭身につかずの例えのようですが、無駄遣いこそがマクロ経済に貢献するというおかしな現実があるのは事実のようです。ちなみに、資源、環境という分野まで経済学の分野になりますから、そこまで考えればやはり無駄遣いはよいことではないでしょう。

 


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