中心市街地再開発計画の怪

先日、長岡のある中心市街地を歩いていた無言は、知人に呼び止められた。聞けば、コンサルタントがやって来て、再開発計画の同意書にハンコを押せといわれたが、どうしたものかというものであった。

その知人は、先祖の代からそこで小さな文房具店を営んでいるのだが、亡くなった先代は歴史研究家でもあり、アメリカナイズした思想には与せず、日本的な思想をもつ人であった。土地は先祖代代守り続けるもので、売り買いするなど論外であるし、店を大きくするなどということは考えたこともないという思想だったのである。

無言はその店に連れて行かれ、コンサルタント会社の置いていったという封筒からいろいろな資料を見せてもらい、話を聞いた。

その話は概ね次のようである。

この文房具店のある街区を1つとして、大型の再開発ビルを建設し、地権者には土地面積割合分の権利として、再開発ビルのテナントを家賃無料でもつことができる。

住宅を別に求めたい場合は、半分の権利を買い上げ、半分のテナントをもつことができる。この場合の買い上げ価格は、坪75万円として計算する。

例外として、権利をすべて売却して再開発計画に加わらないこともできるが、ぜひ加わって欲しい。

この街区には老舗の百貨店が存在するが、この百貨店は再開発ビルにテナントとして出店する。

というものであった。

この手の再開発計画は、バブルの頃からいくつも浮かんでは消えたように思うが、この話では消えたわけではなく進行中ということであった。

それにしても不思議なのは、柏崎の再開発や三条の再開発などの失敗が話題になっているというのに、当事者は全く知らないし、説明もないというのだ。

もっとも説明がないというのは、不利な材料は隠すという法則どおりなのかもしれないが。

問題はこの計画が成功するかどうかであり、成功しそうならば乗ればよいのである。しかしどう考えても、成功する確率は低そうである。テナントに入る百貨店が本気で主体的に取り組めば可能性はあるのだろうが、単なるテナントということであれば、日和見しているに過ぎないのではないか。

現に柏崎の失敗も、キーテナントのスーパーが開店1年で撤退したことが最大の原因だったはずである。

ならば中心になって計画しているのは誰なのか。それはある大型専門店と資産家の寝業師だという。

大型専門店はすでに店舗を縮小し、空きスペースを駐車場にしているのである。うがった見方をすれば、現在使われなくなったビルを取り壊すのに数千万円がかかると思われるが、この計画を実行すれば取り壊し費用の負担なく、買い上げ分の現金とテナントスペースを手に入れることができそうである。

また寝業師は、自店舗の底地が自分のものでなく、この辺の大地主のものであるという。しかもこの地主は地上権を認めていないということだから、この寝業師はなんの権利ももたないと同様である。しかしこの計画では無料のテナントを確保できるのである。

この両者は明らかにこの計画によって、瞬間的に利益が期待されているのである。

だいたいこの手の説明に経営主体と資金繰りの説明がないというのはおかしいではないか。無言が追求すると、やはり経営主体はこの権利者たちが会社を作って株主となり、事業資金約90億円のうち25%を国の補助金で調達し、残りは国の金融機関から低利長期間で借り、連帯保証するのである。

連帯保証する人たちになんの説明もせずに、さも国が作ってくれるかのような錯覚をもたせているのであるから、罪が深いといえるのではないか。

もちろん曲がりなりにも経営者であれば、あまりに勉強不足と言わざるをえないだろうし、なんでもお上がしてくれるものだという甘えがあるのではないかと思うのである。

ところでこのコンサルタントというのは何だろうかと考えると、その正体が明らかになってくる。これはあくまで建設コンサルタントであり、計画がまとまれば自分の仕事ができるのであって、その後の経営がどうなっても関係ないのである。

こうしてみると、登場するすべての人が、責任をもって成功しようとはしていないのである。みんなとりあえずの利益を確保し、怪しくなったらすぐに逃げ出そうと考えているようなのである。

こうして件の何も知らない小さな店の人だけが、わけもわからずハンコを押させられているのであろうか。どこの計画をみても、この点は共通なのではないか。だとすれば、あな恐ろしや。

やはり、「アタッシュケースをぶら下げてニコニコとやって来る男は全て詐欺師」と考えておいた方がよいようである。

 

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