戸隠で鳥を聞く

戸隠は無言のお気に入りの高原である。毎年この頃には一度、バードリスニングにでかけることにしているのだ。

国道18号線を柏原で右折し、山道に入ると、幸運なことにアオゲラが飛び出し、車のすぐ脇、手が届く程のところを追い越していった。アオゲラは無言の好タイプである。赤いベレー帽と意外に濃厚なグリーンが目に焼き付て離れなかった。

村営キャンプ場はすでにヒメハルゼミの鳴く時間になり、小鳥の声はそれほど聞かれなかったが、白樺の幹にできた巣穴に、コムクドリがさかんにエサを運んでいた。最初は双眼鏡で覗いているとなかなか巣穴に近づかなかったのだすが、そのうちに慣れたのか、気にせずにせっせと運んでいた。また、印象的なイカルの声が、広いキャンプ場に響いていた。

夜は明日にそなえて夜遊びもそこそこに、9時にテントに潜りこむ。

突然、スビンスビンズババババーンという爆撃音が聞こえたような気がして目が覚めた。しばらくそのまま耳を澄ましていると、森の方からホトトギスの声が聞こえる。時おりズババババーンとオオジシギが爆撃をする。そのうち、ジュイチー、ジュイチーとジュウイチの声。やがて、遠くではカッコウも一声。

「よし、朝だ」私はそう思い、車に乗り込んだ。そっとエンジンをかけると、目の前に2:02という文字が飛び込んできた。「なんだ? 2時か?」さすがに早すぎたので、テントに戻ってシュラフに潜り込んだ。

そのままウトウトしていると、再びホトトギスの声で我に返る。特許許可局、特許許可局と周り中で鳴いている。こう許可局ばかり多くては、石原都知事でなくても、役所が多すぎるといいたくなってしまう。

そんなことを考えているうちに、ボボボボボと、地鳴りのようなツツドリの声。そして、キョロンツリー、キョロンツリーとアカハラが夜明けを告げ始めた。「今度は間違いないはずだ」そう思って起きると、カッコカッコウ、カッコカッコウとカッコウが鳴き交わし始めた。

再び車に乗り込むと、今度は4時。「よし」と心で叫んで、植物園へと向かったた。

植物園に着くと、もう圧倒的なまでの鳴き声のシャワーである。360度上から遠くからの声が入り乱れ、わけがわからない。私はこの時が一番感動するのである。キャンプをしない時には、この駐車場で泊まり、夜明けのドラマを楽しむのである。

さて、植物園の木道を歩き始めると、真っ先に迎えてくれたのが、ミソサザイであった。とにかく突き抜けた澄んだ声でジャズを演奏する。続いてはアオジ。あとは聞いた順に列記しておこう。

エゾムシクイ、コガラ、ウグイス、キセキレイ、メジロ、ヒガラ、キジバト、カワガラス、カルガモ、カイツブリ、サメビタキ(コサメビタキ?)、サンショウクイ、エナガ、ゴジュウカラ、キビタキ、アカゲラ、ハシブトガラス、コルリ、コマドリ、というところか。

しっかりと見た中で、感動的だったのは、カラ類の群れを覗いている時に、突然視野に飛び込んできたオレンジ色のコマドリであった。

あと、キャンプ場の上空を、アオサギ、ハチクマが飛んでいった。

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