平成の教育改革が仕上げを迎え、週5日制がスタートするとともに、総合学習が一段と充実し、地域の人をボランティアに導入することが始まった。
今回の授業は、川口町に住む絵本作家、松岡達英氏のご案内で、日本最小のトンボ、ハッチョウトンボを見て、松岡氏の生き方を学ぶとともに、現地の全校児童6人の木沢小学校の子供たちと交流するという、盛りだくさんの企画だった。
もちろん無言がそんな大それたことを考えるはずはないのだが、以前から松岡さんにお目にかかりたいと思っていたことと、ハッチョウトンボを見に行くのに無言が登場しない手はないなと考えて参加したのである。
ハッチョウトンボは無言にはもちろんなじみ深いのだが、一般には見たことない人がほとんどである。それは、水が湧き出るような湿地に発生して、ほとんど移動しないからであろう。
ところが、この環境は山間の田んぼが捨てられた時に出現するものである。以前は長岡の山間にも急速に増えたようだが、今では藪になってしまったので、減少したか、あるいはアプローチできなくなったということで、あまり見かけられなくなったようである。この地区に多産するというのも、喜んでいいのかどうか。複雑なものなのである。
さて、目的の休耕田に着くと、やはり真っ赤なトンボが湿地の草にポツンポツンと止まっていた。子供たちには、予想以上の小ささだったようで、あまり見つからなかったようであるが、無言は畦にはいつくばって、デジカメをトンボに近づけた。
こういう写し方ができるのがデジカメの便利なところで、手さえ伸ばせば液晶ファインダーに写ってくれる。それにフィルムを使わないので、気楽にバシャバシャ写せる。但し、シャッターにタイムラグがあることと、オートフォーカスが気持ちよく動いてくれないのが難点で、結局あまりよく写らなかったので、以前の写真を披露しておくことにする。
鮮やかなオス
ショウジョウトンボと並んで最も赤いトンボ
メス
オスはショウジョウトンボのミニだが、
メスは似ても似つかぬ色である。
ちなみにショウジョウトンボは橙色一色である。
どうだろうか。実に美しい姿ではないか。オスはもちろんのこと、メスの渋い色合いも、日本人好みだと思うのだが。もちろん大きさはこの写真の半分くらいである。
さて、この日はこのあと、木沢小学校の子供たちと交流し、松岡さんにいろいろな質問をし、最後に最新作の「地面に中の生き物」の展示を見学させていただいた。
教育上の目的は、それぞれの人たちとの交流から、人生に目標をもつきっかけを作りたいということなのだろうが、無言としてはもっと自然に浸りたいという感想を持ってしまった。
もちろん皆が虫好きになるはずはないのだが、虫嫌いや無関心派が、自然にも無関心でいるという現状に、無言としては不満なのである。無言にとっては楽しい農道が、たいくつな移動に過ぎないのは寂しいではないか。
自然はすべて無駄なく適応して生きている。人間とてその例外ではなかった。それゆえ、自然に学ぼうとして生きてきた。
しかし、人間が高度な文明を手に入れるようになって、いや正確には自然を破壊できる力を手に入れるようになって、人間は変わった。持続可能なシステムである自然が、持続不能になったのである。その結果何がおこるのか。怖いような気がするのは無言だけではあるまい。
下天のエーヤに聞けば、市町村合併と地方の自立の中で、中山間地はどうなるのだろうか、という「経済学道場」の餌食になるのであるが、無言はそんなことより、虫や生き物の行方が気になるのである。
「好きな絵を描いてお金をもらえるのが一番うれしい」と屈託なく語る松岡さん。少年の瞳の輝きを失っていない姿に脱帽であった。
「今度は個人的に遊びにきて下さい」、とリップサービスも忘れない松岡さん。
でも、松岡さんが歩く時にフーッ、フーッと肩で息をするのが、無言としては気になってしかたなかった。