オペラの怪人現る

8月2,3日は長岡祭りであった。

もちろん無言には祭りは似合わない。似合わないから、俗世のつながりのますみママの実家に、花火を見に行った。

花火を見にといっても、家から見えるわけではなく、単に土手に近いことと、オヤジが花火の合宿所になることを好んでいること、娘の「るり」がおばあちゃん家に泊りたがるから、という理由で花火を見に行ったのである。

ところが今年は、ますみママの従兄弟になる小林彰英氏が家族を率いて登場したのである。

小林彰英氏といっても、無言には誰のことかさっぱりわからないのだが、オペラの怪人というとすぐわかってしまうのだ。

彼は今から13年前に結婚して、長岡に来たことがあるらしいのだが、その頃は彼が声楽家として売り出し中であり、「オベら座の怪人」という映画がヒットしていたことから、ますみママの姉妹の中では、彼を「オペラの怪人」と呼んでいたのである。

しかし、無言は会ったこともなければ、オペラなどは畑違いもはなはだしく、まぁ会うことはあるまいと考えていた伝説上の人物なのである。

そのオペラの怪人が突然目の前に現われたのである。そして、同行した奥さんというのも同じく声楽家であり、結婚式の時は2人でオペレッタ仕立ての披露宴をやったことで、身内の間では超有名なのである。

その2人が突然現れたのである。しかも、無言は畑違いである。

当然無言は人見知りをしてしまう。なにしろ畑違いなのだから。

現れた怪人は、もちろんラフな姿のせいもあるだろうが、無言にはトライアスロンの選手かマッチョにしか見えなかった。オペラも畑違いだが、マッチョも畑違いである。

ついでに言うと、黒のTシャツとハーフスパッツにみを包み、筋骨隆々の姿からは、TVアニメ「こちら亀有公園前派出所」に登場する両さんのゴキブリ姿が連想された。

しかし、無言はゴキブリも畑違いである。

「声楽家は体が資本だから」というのが怪人の説明だった。無言もそれくらいの知識は持っている。

ところがこんな時には、めっぽう強い秘密兵器を持っているのだ。それは、娘の「るり」である。

るりは妙に人懐っこい性格をしていて、知らない小父さんとも平気で遊んでしまうという特技をもっているのだ。

この時も、さっそく無言はるりを使って、怪人の反応を試してみた。ところがこれが案外すぐに、いやたった3秒で成果を上げたのである。

どうやら怪人は無類の「子供だまし」の天才かもしれなかったし、子供を使ってこちらの反応を試しているのかもしれなかった。すぐにるりを相手に一発芸を披露したり、かまったりし始めたのである。

るりにとっては思う壺である。さっそくすりよったり、抱きついたり、馬乗りになったりと、アプローチを深めていった。

オペラの怪人とるり

怪人の奥さんと娘の瑞希ちゃん

みんなのアンコールに応えて、オペラの怪人は「オーソレミオ」を熱唱。みんなの心配したとおり、眠っていた胡桃ちゃんが目を覚まし、怖い顔で怪しい小父さんを見つめつづけた。

子供だましを連発してご機嫌取りをする怪人

さっぱり警戒がとけない胡桃ちゃんに、顔を見せずに擦り寄る怪人

しかし、胡桃の疑惑は深まるばかり

「変な小父さん」

こちらは馬鹿受けのるりと瑞希ちゃん

我が息子の一人舞台に、それなりに喜ぶ怪人のご両親

無言は生まれて初めてオペラ歌手というものとひと時を過ごしたのであるが、オペラとはいえ、いわゆる舞台人。舞台人はエンターティナーでなければならないのだという実感をもったのである。

どうか快く酔わせてください。快く騙してください。

「被害届亡き詐欺師」

まだまだ世の中にはいろいろな種族がいるものである。

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