怪しい秘密基地エコファームで

無言もエコを考えた。

21世紀の「食と健康」を考えるフォーラムが、9月29日エコファーム新潟で開かれ、どういうわけか無言も参加することになってしまった。

エコファームというのは、鈴木造園の鈴木社長が長岡市柿町山中に立ち上げたもので、自然、農、食、健康など人間が生を営む上で基本的な問題を意識する場を持つという理念に共感した会員たちとともに、協力して運営されているということであった。

ところが、エコファームへ向かう道路がすさまじい。ほんの山間の農道である。小型車で走るに問題があるわけではないが、この先にファームがあるという確信が持てなければ、そして対向車が来ないという確信がなければ、とても走れない道である。

無言が最初に訪れたのは昨年 (2001年) の夏であるが、その時は本当に入口で迷ってしまった。あまりの細さに、他に道があるに違いないと思ったのである。これは見方によっては、門外漢を排除しているようなものであ。いわばロイヤリティの厚い扉というものかもしれなかった。

しかし恐る恐ると侵入して、山中の怪しい秘密基地のようなエコファームが忽然と目の前に現われた時には、感動さえ覚えたのであった。

そこには立派なログハウスがあり、レストランみたいなものがあり、さらに怪しい建物があり、畑があり、動物がいて、キャンプ場があり、というものであった。

いわゆる秘密基地にしては、立派な施設があり、観光施設としては素朴かつ不気味というものであった。

ところが今日はそこで、フォーラムがあるという。しかも商工会議所の案内である。ならば新興宗教ではないだろう。不特定多数が集まるという前提であろう。それがとても信じられないのである。

ところで、その結果がどうだったかというと、およそ50人程が見かけられたが、実は主催者団体の関係者、家族ばかりだったのである。そして無言もその1人でもあったのである。残念ながらそんなものである。

しかし無言にとっては、そんなイベントのことなどは関係がない。そんなことより、その中で登場した講師たち、役者たちの生き生きとした姿に感動してしまったのである。

この日の主な役者たちを、無言風に表現すると、次のようになる。

「必殺キパッキパッ光線を放つ消費者運動の鬼、亘のおばさま」

「五十六カレーの伝導師、本間シェフ」

「リサイクルの求道者、金子氏」

「エコファームの理念の鬼才、鈴木社長」

「EM菌の布教家、岩村氏」

どの人をとっても語るに十分であるが、キバキバ光線おばさんはご勘弁という感じであるから、ここでは金子氏と鈴木社長について語ってみたい。

また、シェフとEM菌については、別の機会に改めて語りたいと考えている。

さて、、「NPO地域循環ネットワーク」の金子理事長は、本日のメインイベントとでも言うべき存在であった。

理事長などという言葉が氏に似合っているのかどうかわからない。この場合、恐らく本人はふさわしくないと思っているのだろうなと思いつつ書いてみた。金子氏については新聞などで多少の知識を持っていたのだが、そのイメージは「穏やかな顔の気のいいおじさん」といったものだった。

ところがそのイメージはすぐに吹き飛んでしまった。氏こそは「リサイクルの求道者」とでもいうべき実践家であったのである。

氏のNPOでは、現在長岡市内の各小学校から出る給食の残さ (残り物を言うらしい) を回収して、飼料として契約牧場に納めたり、肥料として契約農家に納めているが、そればかりではない。

割り箸を回収して、福祉施設で分別してもらい、きれいなものは製紙会社にパルプ原料として納め、きれいでないものは建築資材クズや竹などとともに、炭に加工し、土壌改良に使ったり、匂いとり等に販売したり、木酢液の販売をしているという。

これは化石燃料を燃焼させることによって生ずる地球温暖化を緩和する運動であるとともに、炭素を地中に返す目的も兼ねているという。

もちろんささやかな抵抗に過ぎないのだが、それでも地球規模の環境破壊に対して、主に定年後のボランティア軍団を率いて、果敢に挑戦していく姿勢は後光が射しているようにさえ見えたのである。

氏によると、現在日本では950万トンの米を作りながら、さらに減反を進めているが、その一方で2450万トンもの生ゴミを処理しているのだという。いかに大量の食料が輸入され、廃棄されているかがわかるというものである。

そして生ゴミは、焼却炉で燃焼させるのであるが、これはゴミ1トンに対して27000円の税金を投入しているのだという。これをボランティアで回収し、地域で循環させる。さらに地域のいろいろな人をまきこんでゆく。正に物と人の地域循環活動なのである。

決して口角泡を飛ばしたり、絶叫したりするわけではない。小柄な体で、ポンポンと数字を並べながら、無表情によどみなく説明する姿は、「リサイクルの求道者」と呼ぶにさわしいという印象を受けたのであった。

そして、無言はとりあえず精神的には弟子入りを宣言したのである。

さて、フォーラムの開始を待つ間、鈴木社長は山から引いた水をホースで引っ張り、コンクリートの通路にたまった泥を丹念に流していた。

相当な時間、恐らくは何かを考えながらだと思うが、三々五々集まる参加者たちの声を背中で聞きながら、ひたすらに泥を流しつづけていた。

雨上がりの天気で、周りにはぬかるみがあるのだから、ほとんど効果があるとも思えないのだが・・・。現に無言はファームの片隅で飼われていたゴールデンレトリバー君に挨拶をしたら、泥だらけの足でしっかりと抱きつかれてしまい、足形をもらったのである。

しかし、鈴木社長はそんなことは意に介しないという雰囲気で泥を流しつづけていた。

氏はここのエコファーム新潟だけでなく、日本全国に理念をに共鳴する人々を募り、すでに3か所に同様のエコファームを立ち上げたということであった。

しかしその一方で、「政治にかかわっちゃならん。政治や役所にかかわるとろくなことがないから・・・」と、はき捨てるようにつぶやいた。

1つの理念を掲げて、全国を相手に、一歩一歩自分の足で歩き、自分の手で形を造ってきた男の、背中に燃える理念の炎を無言は見た思いがしたのであった。

 

 

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