1. 夏山縦走と思いがけないケガ
─ 蓮華温泉〜白馬岳から祖母谷温泉への縦走から ─
あなたは人目のお客さんです
◆ のんびりゆっくり白馬の山の花旅
山歩きが好きで、時間を見つけては時々あちこちの山を登っている。もう年も還暦を超え無理もできないが、それでも春先から秋にかけ20回の山行きが目標である。
なかでも毎年夏、仲間と2〜3泊の夏山縦走を楽しみにし実行してきた。この夏の縦走が一年の山行きで一番の楽しみだ。
今年は、8月の5日から北アルプス蓮華温泉〜白馬岳〜旭岳〜清水岳〜不帰岳〜祖母谷温泉までの3泊4日のコースであった。
メンバーは男6人。平均年齢60弱。いづれもそこそこの山歩きの経験者。
6日朝6時、蓮華温泉出発。前日はゆっくり温泉につかり、アルコールもほどほど入り、休養は十分。天気も曇りがちながらまずまず。行く手の右に、朝日岳と雪倉岳が雲間から見える。雪も谷すじに白く残っている。2年前、白馬から雪倉〜朝日への縦走が思い出され懐かしかった。
1時間ほどで天狗の庭。まさに天然の庭だ。岩とハエマツのコントラストが絶妙だ。雪倉岳に向かう鉱山道が真正面に見える。朝、若い女性が一人でその道を行くと言って出発していった。いまごろ、一人黙々と登っていることだろう。ひとり旅もまたいい。
さらに1時間ほどで、白馬大池に到着。実にひろびろとした草原に無数の花々が迎えてくれた。チングルマ、ハクサンイチゲ、コイワカガミなどなど。標高2,300mの白馬大池は波静かに輝いて印象的だった。確か40年も前だったが、ここを通過しているはずなのに、まったく記憶に残ってないのが残念だった。
小蓮華山へ向かう。ここからは、眺めのいい格好の登り。今日の泊まりは白馬山荘までなので眺望と高山植物の花々をゆっくり探勝とする。今年の高山は、日照時間が少なかったせいか、比較的残雪が多いことと、いろんな花が一斉に咲き競っている感じが印象的だ。その真っ盛りにぶつかったようでありがたい。
高山の花に詳しい山の先輩がいてありがたかった。その都度メモってはみたが、とても覚えきれるものではない。沢山のデジカメ写真が撮れたのがせめてもの幸いだった。
チングルマの群生
小蓮華山から白馬山頂のコースは岩場とガレ場。その合間に可憐なコマクサやイブキジャコウソウ、ミヤマタンポポ、イワベンケイ、シナノキンバイなどなど次からつぎへと目をたのしませてくれる。間じかには雪倉、朝日岳が目の前にある。のんびり楽しむにはもってこい
の尾根コースだった。宿の白馬頂上村営宿舎に2時前に入る。平日のせいか、夏の最盛期にしては混み合うこともなく心地よい一晩であった。
◆ 標高2千mでの右足捻挫のケガ
村営宿舎での一夜は、適当なアルコールとゆったりとした寝こごちに恵まれ互いに快適な朝を迎えた。天候も上々。尾根に上がると遠く立山・剣岳がどっしり構えているのが望まれる。南には五竜・唐松方面も見える。くっきりした朝の眺めは格別だ。6時、今日の日程の旭岳〜清水岳〜不帰岳〜百貫山〜祖母谷温泉のルートへと出発。2日ほど前、祖母谷温泉への下山コースで土砂崩れがあって危険らしいとの情報もあったが、支障なしとみて予定どおり向かうこととしたものである。
このコースは、一般コースから離れているせいか、ひっそり静かなものだ。旭岳の硬い雪渓を越えると、俄然高嶺の花々の競演となった。数えきれないほどの高山植物がいっせいに咲き競っている感じだ。こんな年も珍しい。種類が豊富だ。たっぷりとデジカメに収めることができた。旭岳〜清水岳〜不帰岳間はけっこう急坂ながら下りコースのお花畑の連続で実に楽しみなコースだった。
ところが、ここまで快適に進んできた縦走路が、標高2千米下の不帰岳避難小屋を過ぎた午前10時過ぎ、とんでもないアクシデントが身に振りかかってきてしまった。一番後ろから急坂を、仲間との距離を縮めようと急いだ一瞬に右足をとられて転倒。そのまま動けなくなってしまった。足首の捻挫。一行はただちにストップとなってしまった。幸い、テーピングでしっかり足首が固定でき、どうにか痛みをこらえ、ストックを頼りに歩行は可能となった。仲間にザックの中身を分散し、荷を軽くしてもらって助けられ進むことになった。一時は、このまま進めないのではないかと、下山コースとはいえ、あと3時間ほどの距離をどうしたものかと心配したが、仲間に大変な迷惑をかけながらもどうにか祖母谷温泉に辿り着くことができた時は、正直ホットした。
もう年は若くない。内心は、体力に多少の自信めいたものを密かに持ってたつもりではあったものの、結果としてそれが過信であったのだ。仲間に多大な迷惑をかけてしまった。仲間に重い荷を背負わせ、スローペースをつき合わせたうえ、最後までかばいあってくれたことを感謝しないわけにはいかない。ありがとう。
還暦一年後の、今年の夏山縦走は終わった。多くの花々との出会いがあった。北アルプスの眺望も存分に味わうことができた。適度のアルコールとそして仲間との楽しい語らいもできた。そして、標高2千米の山中での辛い体験も。今は脚のギブスもとれ、リハビリをしながらアルバイトの職場復帰もできた。今回のできごとを貴重な教訓として、体力を温存しながら続くかぎり山歩きに挑戦していきたいものだ。
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