青本の世界

「わしらはパパラギ探険隊

いまだ探険せず」


 

目次

エーヤの独善手記          ついに出ました、わしらはパパラギ探険隊

土田文豪の書き下ろし       パパラギ隊の素敵な仲間たち     

エーヤの随想             夜のためいき           

エーヤの独善手記          巣守伝説を造るのだ             

ドキュメント               日和見教団誕生す             

エーヤの独善手記           尊氏の怪しい丸太小屋            

エーヤの合宿記録           緑の国の夏休み               

土田文豪、不朽の名作       いなごの小屋の怪しい一日         

土田文豪,渾身の力作       オオガタのガタガタ物語            

エーヤの合宿記録          再び,緑の国の夏休み       

 

418ページにも及ぶ、独善手記と感動の物語を収録して、極私的限定販売致します。

 

 


 

巣守伝説の誕生

 

越後平野南部に、かつて言い伝えられていたという物語である。

まだ医学も発達していなかった時代には、

病気のために子供が育たなかったことも、珍しいことではなかったという。

この地方では、男の子が生まれると、

信濃川から石を拾い、子供の名前を書いて巣守岳山頂の石祠にそれを納め、

無病息災を祈ったという。

そして7年後、

無事に育った子供とともに再びここを訪れ、子供の無事を感謝し、

その石を信濃川に帰すのである。

後には、

二度と訪れることのなくなった子供の石だけが、残されているのである。

山人たちは残された石に手を合わせ、

亡き子供達を弔ったのだという。

日本人って「あはれ」だなぁ。

 

パパラギ探険隊では、毎年巣守伝説継承登山を継続しています。

 

 

 

 


いなごの小屋の怪しい一日

 

平成9年11月土田文豪作

「つちだくん、つちだくん !」

エーヤ隊長が、突然元気よく叫んだ。

今までの経験からすると、エーヤ隊長が突然意気高揚して話し始める時は、要注意なのて゜ある。

そういう時は、必ず隊長からの御神託が発せられると覚悟を決めた方がよい。「御神託」とは、簡単にいえば絶対服従の命令である。

「つちだくん、つちだくん。今度いなごの小屋で、20周年記念式典があるから、その時は君もいっしょに行かなくてはならない」

エーヤ隊長は、きっぱりと断言した。

エーヤ隊長は、「パパラギ探険隊」の隊長である。

ババラギ探険隊というのは、エーヤ隊長とつちだ隊員によって結成された「いつでも、どこでも、だれとでも探険しない」という噂のある長岡では有名な探険隊である。

二人は、東京の大学を卒業し故郷にUターンしてきたが、田舎での生活の退屈しのぎに仲間を集めて「探険隊」遊びをすることを思いついたのであった。「探険隊」といっても、いわゆるアマゾン探険隊といった本格的なものとはほど遠いものであったが、それでも本人たちにとっては、一応はれっきとした「探険隊」なのであった。

エーヤ隊長の「探険」は時にはアブナク怪しいのだが、隊員たちの信頼は絶大であり、いつも隊員たちを引き連れて、「正しく探険する」のである。

エーヤ隊長によれば、世の中のすべての探険隊では隊長が指導者であり、司令官であるということであった。隊長は、いわば絶対君主であり、その命令は絶対服従の命令であるという。エーヤ隊長は、その絶対服従の命令を「御神託」と名づけた。

隊長の「御神託」はいつも突然にやってきた。

それは、「厳冬の最中に外で寝ること」や「米山の山頂で先進国酒脳会議と称した大宴会サミットを開催してはどうか」といった命がけの体験だけでなく、隊長が、「トリノ羽ばたき焼きが食べたい食べたい」と言い出せば、隊員たちは、それが一体いかなる料理であるかを、恐る恐るお聞きした上で、あげくの果てには生きたニワトリを位置は調達しなくてはならないはめになる。

「御神託」は多分に探険とはほど遠い、隊長の「思いつき」や「ひらめき」であり、実現されるには多大の困難を伴うものであるが、そんなことは全く隊長の意に介されないのであった。

隊長が「御神託」を発する時は、それかぜいかに無茶なものであっても、

「いや、絶対にやらねばならぬ。今やらねばいつできる。オレがやらねば誰がやる。やればできる。ねぇ、やってちょうだい。お願いだから・・・」

などと言って、威勢がいいのだが、しばらくすると、

「ああ、あの事ね。やっぱり無理でしたか。そうは思っていたんですけど、やっぱりね。最初から無理だと思っていたんですよ。できたらスゴイとは思っていたんですけどね。ああ、やっぱりね」

と、無責任なことを言うことがあるのであった。無理だと思っていたら最初から言わなければいいのだが、少しも悪びれずにそれを言ってしまうところに隊長のスゴサがあるのだった。

そしてエーヤ隊長は、「隊長は、古代エジプトのフヲラオのように振舞っていいのだと、声高らかに宣言し、その無責任さすら正当化したのだった。

それは、隊員たちの人権を無視したあまりに一方的な宣言であったが、隊員たちはむしろ、その「御神託」を非日常的な愉しみとして心待ちにしていたのである。いかに隊長が突飛で困難な命令を出すにしても、事実その隊長の企画力、行動力がパパラギ探険隊を支えているのであった。

そして、時には騒動の素となる問題の「御神託」によって,パパラギ隊の探険は始まり、今までに数々の「オモシロオカシイ出来事」に見舞われてきたのであった。どうしてこのような「パパラギ探険隊」が結成されたのかといった、そのあたりの、背中に手の届くようなすっきりとしたパパラギ探険隊誕生の物語については、「パパラギ探険隊の素敵な仲間たち」というところに述べられている。

しかし今回は、「いなごの小屋」である。

 

さて、

「一緒に行かなくてはならない」

エーヤ隊長は、きっぱりと断言した。

「いいですねぇ」

つちだ隊員が即座に答えた。

「いいですねぇ」 というのは、つちだ隊員の口癖である。

この人は、いつでもどこでも、何にでもすぐ感激して 「いいですねぇ」 と言ってしまうのだ。まるで正反対の事を言われても、その両方に「いいですねぇ」と言ってしまうイイカゲンな特技を持っているのである。

この人は、実はパパラギ隊の事務局長でとっても偉い人なのだが、こうした性格から、アリガタイことに「パパラギ隊のつちた日和見事務局長」略して「日和見のつちだ」ともいわれている。

そんなイイカゲンな人物であるが、実は、いまやパパラギ日和見教の教祖であり、尊師でもある。「パパラギ日和見教」というのは、日和見のつちだ事務局長を教祖とするアヤシイ宗教である。

この教団の教義は、決して主体性を持たず日和見精神に徹することである。そうすることで人と争いに決してならず、平和な毎日がおとずれるという。そのためには、常に人の主張に賛同することが大事であるから、教団の合言葉はズバリ 「いいですねぇ」 である。

尊師が 「いいですねぇ」 と唱えれば、信者も 「いいですねぇ」 を3回、次第に声のトーンを上げながら、「いいですねぇ、いいですねぇ、いいですねぇ」と明るく復唱しなければならない。

そして不思議なことに、本当は嫌なことでも、「いいですねぇ」 を唱えると、だんだん心の底からよくなってくるというフシギな宗教なのである。

この教団は、今や長岡では一大勢力を形成しつつあるのだから、人は侮れないのである。スーパーマーケットの「スーパーツチダ」も長岡ではいくつもの店舗を持つ一大勢力だが、「尊師のつちだ」もすごいのである

そうしたパパラギ日和見教団結成のさわりについての、もっと詳しい、背中に手の届くようなすっきりとした詳細については、「日和見教団誕生す」のところに述べられている。

しかし今回は、「いなごの小屋」である。

「つまり、一緒に行かなくてはならない」

エーヤ隊長は、またきっぱりと断言した。

「いいですねぇ」

つちだ隊員が、また即座に答えた。

「そして君は、いなご倶楽部の賛助会員第一号にならなくてはいけないのだ。その理由は、以前いなごの小屋にも泊まったことがあるからだ」

エーヤ隊長は、まるで犯罪の証拠を見つけたかのように、力強く言い放った。

つちだ隊員にはさっぱり何のことか判らなかったが、確かにつちだ隊員とその家族、及びエーヤ隊長とその家族は、以前いなごの小屋に宿泊したことがあった。

そうした、つちだ家族とエーヤ家族の関わりの、そのさわりについてというより、その辺の、あるいはその後のもっと詳しい、それぞれの愛妻および息子、娘たちをめぐる不思議な運命についての、背中に手の届くようなすっきりした物語については、「オオガタのガタガタ物語」というところに述べられている。

しかし今回は、「いなごの小屋」である。

さて、「いなごの小屋」というのは、湯沢町土樽に建つ、ある山小屋のことである。

この小屋は、エーヤ隊長の母校である超有名私大W大学のなかで、あまり有名でない「生物同好会」の面々が昭和五十二年に建設した 「自然の中の第二の部室」 であり、動植物観察のためのベースキャンプ小屋なのである。

当時、この小屋は想像を絶するほどの学生及びOBの情熱と労力によって建設された。事実、山肌の中腹にそびえるように建つこの小屋の威容ときたら、それが素人の学生たちによって閉てられたとは信じがたいほどの立派なものである。

しかし、二十年の歳月を経た最近は、老朽化が進んだこと、またそれよりも学生の気質が様変わりしたことにより、今はその使命を終えたかのような感があった山にこもり自然観察をすること、また山小屋で青春を語り合うという地味なことに情熱を注ぐ学生が少なくなり、その結果、次第に山小屋を訪れる者も少なくなっていたのである。

そこに目をつけたのが、我がエーヤ隊長であった。

 

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      尊師の怪しい丸太小屋

平成7年7月エーヤ隊長作

 「エーヤさん、エーヤさん。」

 日和見尊師は、挽きたてのコーヒーの入ったカップを、両手でなで回しながらきり出した。

「実は二千円で泊まれるログハウスを発見したんですよ。」

 尊師は、声をひそめて言った。不思議なことに、声をひそめると急に頭上のコナラの梢から、キビタキの玉を転がすような澄んだ声が聞こえてきた。

 オレたち一家と尊師一家は、恒例の朝食会を五十沢キャンプ場で開いたところなのだ。梅雨空ではあったが、雨粒は落ちずに、今しがたソーセージとオープンサンドイッチの定番的朝の外食(野外食)のメニューを食べ終えて、コーヒー豆を挽き、モーニングコーヒーの香りを楽しんでいるところなのだ。

 ゆうとさとし、それにたかみの三人は、早速コナラ林の中を走り回っていた。くじら眼のますみママは、もえすぐ一歳になる娘るりをベビーカーに乗せて、牛乳を飲ませているところだ。ソコネガイオカーサンとして有名なさとみオカーサンは、昨夜のテント泊の疲れか、髪の毛を逆立てながら、ボー然とコーヒーカップを口元に抱えていた。

 朝食会と言ったが、本当のところは尊師一家がキャンプをしているところに、オレたち一家が押しかけてきたのだ。というのは、今年はるりがまだ一歳で手が掛かるところにきて、春にゆうが心臓の手術をして以来、ますみママは腰痛に悩まされ、キャンプ活動は自粛を余儀なくされていたのである。

 

「二千円で泊まれるログハウスを発見したんですよ。見に行きますか?」

 尊師は言った。

「見たい! 見たい!」

 オレは即座に答えていた。

 本当のところオレはそれほど関心がなかったのだが、調整型人間であるオレは、せっかくの好意で情報をくれるのを、むげには断れなかったのだ。

 実際のところ、最近の尊師は情報収集に余念がないのだ。これはどうやら、今年のパパラギ祭りで、日和見教の尊師に就任したことが原因らしかった。

「世の中の森羅万象にアンテナを張り・・・。」という能書きが、日和見氏をして尊師たらんとの行動にかりたてているようでもあった。時折、うわ言のように、「視察、視察、しさつ・・・」とつぶやいている姿をみかけることもあるのだ。もちろんそれだけでなく、仕事がヒマらしいこと、ますみママの腰痛で、オレたちがあまり同行したがらないということも理由かも知れなかった。

 

 尊師は時折電話をかけてきた。

「エーヤさん、エーヤさん、手頃なキャンプ場を発見したんですよ。」

「ほう、手頃というのは?」 (またキャンプ場か。オレたちは出かけられないんだってのに。)

「車で四十分です。オートキャンプ場ではないですけど、駐車場から三十メートルで、タダです。」

「ほう、それはいいかもしれないねぇ。(その手の情報はこれで何回目になるんだ?) ところで、自然環境はどうなんだ? 林間か?」

「そうですねぇ。そこんがあですてぇ、問題は。」

 尊師は急に長岡弁になって、言葉を詰まらせた。どうも問題が生じると長岡弁になるようだ。

 あきらかに、オレを挑発している様子であった。オレだって、素直にチョーハツに乗りたいのだ。しかし、チョーハツに乗って出かければ、ますみママの怖い『シウチ』が待っているのは明らかだった。

「どういが! 自分ばっか遊びに行って、いいと思ってるが! るりちゃんはどうするが」

「いや、だからね、ほんの視察だからさ、ゆうと二人で・・・。」

「るりちゃん、パパってそういう人んがぁよ。るりちゃんも行くよねぇ。」

「わかったよ。じゃあ、るりも連れて行くよ。(めんどくさいなあ。)」

 ますみママは、「イタタタタタ・・・」と言いながら、

「はい、じゃあこれ、るりちゃんの紙おむつ。それから着替えね。それから、ゆうちゃんの着替えと、お菓子と飲み物がいるし、・・・。」

 そう言って、買い物かご二個分の荷物がオレの前に並べられるのだ。荷物を並べられると現実が見えてくる。オレはるりをおんぶして、両手にかごをぶらさげて歩かなければならないのだ。オレはウームとうなってしまった。

「この荷物、いらないんじゃないの?」

「ダメ! いるの! るりちゃんはおしっこするんだから! そしたらちゃんと紙おむつを替えてやらなきゃダメなの。のどが乾いたら牛乳を飲むの! ベビーカーに置き去りじゃダメなのよ! パパはすぐ自分だけ虫追いかけて行くんだから!」

 オレは並べたてられる現実に、急速に出かける気をなくしていった。

 

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