《 仙人大阪へ行く-その1 》

兄弟模様を観察する

無言が大阪に行った理由は、千里丘に住む叔父さんの長男の結婚式に出席するためである。

叔父さんは無言の親父の弟であるから、越州の出身である。東京の大学を卒業して、大手保険会社に就職し、転勤人生の途中で、叔母さんに出会って結婚した。

叔母さんの方は、神戸生まれの神戸育ちであったが、その当時家業が倒産し、お母さんが早く亡くなったことから、兄弟は苦労したということであった。

その兄弟たちが結婚式には一堂に集まる。それを観察するのも、結婚式ならではの楽しみである。しかも無言は親父の代理であって、まだ一度も会ったことはないのである。

長兄は職人肌の人であり、いろいろと事業をやってきたらしいが、ことごとく失敗したらしい。長男であるから一応は立てられているが、いわゆるお飾りである。

長女は丸顔で小太りで貫禄もあり、早くから兄弟の母親代わりをしてきたというだけあって、兄弟からゴッドマザーと呼ばれている。

この人の連れ合いは、中小企業の役員をしてきた人であるが、バブル時代にも会社を暴走させなかった、堅実派の一言居士らしい。長男に代わって、親族代表のスピーチをしたが、なかなかに論客らしく、ボキャブラリーも豊富で、メリハリの利いたスピーチだった。

次が次女で、叔母さんである。若い頃から速射砲のようにせわしなくまくし立て、気が回るというよりマイペースに引きずり込む人である。親父などは、叔母さんといると疲れるからといって、早々に逃げてくるのである。

次が次男である。この人は、現在社員1500人を抱えるベンチャー企業のオーナー社長である。さすがにベンチャー社長にふさわしく、態度は横柄でヤクザっぽい。しかもこの社長は超ワンマンで、社員はほとんど歩合給の使い捨てだという。

待合室で待っていても、一番 遅れてやって来て、愛想を振りまくわけでもなく、新郎新婦の席に足を投げ出して腰掛け、秘書のような若い男を従えていた。兄弟ではあるが、誰も寄らず、遠ざけられている様子であった。従っていた男は従兄弟だそうだが、総務部長をやっているということで、きっちりと仕事中という感じだった。

先ほどの一言居士氏に言わせると、「仕事と私生活を混同するな。混同させる社長が悪い」と、いつも文句を言ってはケンカになるのだという。

最後は3男なのだが、この人は別のテーブルにいた。無言が同じテーブルにいたのにおかしな話だが、やはり同席するとケンカになるらしいのだ。

この弟はやはり次男の会社の役員をしていたのだが、阪神大震災で会社が被害を受けて、経営危機になった時、社長が真っ先に切り捨てたのだという。経営者としてリストラに乗り出すときに、身内から切って社員に示しをつけたということだろうが、切り捨てられた方は、ご多分に漏れず恨みに思っている。よって同席して酒を飲めば、一触即発の空気になるのである。

さて無言のテーブルでは、一言居士氏とベンチャー社長氏が隣り合わせで話している。長兄はニコニコしながら黙っている。総務部長氏はもちろん黙っている。そして、それぞれの奥さん方も話のなりゆきを聞いている。

結婚披露宴であるから新郎新婦の話題になるわけで無難なはずなのだが、ベンチャー社長氏は、スピーチをさせられないのが気に入らない様子であるし、一言居士氏は、「おまえのその態度が気に入らない」と説教調である。

そして少しでもスリリングな展開になると、ゴッドマザーがキパッと睨みをきかせる。一言居士氏の娘も対面から、「それ以上言うな」とばかりに、牽制の言葉をはさむ。

どうにもスリリングな緊張感漂うテーブルであった。

無言の親父の祝電が披露されたところで、一言居士氏は話題をこちらに向けたから、ひとまず緊張感はゆるんだのだが、なんともいえない人間模様であった。

そこで思い出したのだが、これは清澄房にある水槽の中の魚たちの力関係と似たようなものである。そこで今度はそのことを書いてみたい。

 

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