清澄房には、小さな水槽が3ケ置いてある。いずれも長岡市内の柿川から採取した魚たちが入れてある。
むろん清澄房付近の渓流にも魚はいるのだが、水温と流れを維持できない小さな水槽では、飼育は困難であるから、平野部の緩やかな流れ、少し汚い川から採取することにしているのだ。
今までにこの水槽には、実に多くの魚たちが一時滞在してきたのであるが、思いつくままに列挙してみたい。
メダカ、ヒメダカ、オイカワ、アブラハヤ、モツゴ、ヒガイ、カマツカ、ニゴイ、ギンブナ、タイリクバラタナゴ、ヤリタナゴ、ヨシノボリ、カジカ、ドジョウ、シマドジョウ、ギギ
といったところであろうか。
いずれも3cmほどまでの稚魚を入れたものである。大きいものは小さな水槽では無理なようで、何度も失敗している。小さいうちはみんななかよく共存しているのだが、大きくなってくると強弱の差がはきりしてくるようである。
さて、この中でも「水槽の中の世界」で誕生したスターを紹介しよう。
まず1番のスターはヨシノボリである。
こいつはガマ口のような大きな口をして石にへばりついている。グロテスクという部類の姿であるが、泳いでいる小魚
(主にオイカワ) に飛びついては、丸呑みにしてしまうのだ。
それを見るのもおもしろいし、性格が凶暴であるが故に、縄張り争いもおもしろいものである。石の上が1等地のようで、場所をめぐるケンカでは時に血が流される。強いほうが石の上を占領すると、もう一匹は隅の方においやられたり、水草の中に隠れなければならなくなる。こうなると弱い方はエサを採る空間を確保することが困難になってしまう。
さて、この水槽にカマツカを入れてみる。カマツカは馬面をして、いつも底の砂を口に入れてはエラから吐き出して、底の掃除をしてくれる愛嬌のある魚である。
カマツカはヨシノボリに追いかけられると、砂に潜ってしまう。そして、エサ
(アカムシ) を入れると、砂がゴソゴソと動き出してカマツカが登場するのである。しかもセコセコと休みなく砂を吸い込む動きも愛嬌者である。
ところがヨシノボリがいなくなると、このカマツカも砂に潜らなくなってしまう。どうやら、あくまで安心して休むために潜るものらしい。これらの行動は、ドジョウも同じである。
また、エサとなるオイカワの方からみると、ヨシノボリが入っていない水槽では、オイカワはかなりバラバラに上層から中層にかけて泳いでいるのだが、ひとたびヨシノボリが底の石の上で縄張りを張ると、オイカワは群れを作って、上層部を一斉に泳ぐようになるのである。これはちょうど、アフリカ・サバンナのライオンとシマウマの関係と同じように思われる。
ヨシノボリが昼のスターだとすると、夜のスターはギギである。
ギギはナマズの仲間であり、いかにも凶暴そうなのであるが、日中は水草にぶら下がっているばかりで、怠け者のようにも思われる。
ところが夜になると、真っ黒い体でヒゲを張りながら、サメのようにスーッと現れてはパトロールをしているのである。そしてエサを見つけると、大口で吸い込むように食べてしまうのだ。
現在1つの水槽には6cm程のギギが2匹だけ棲んでいるが、日中は流木の下に隠れていてほとんど姿をみせることはない。ところが夜になって、エサのアカムシを入れると、あっというまに吸い込んでしまう。後には何事もなかったように静けさが残るのである。
この水槽にはギギよりも大きなドジョウも入れてあったのだが、それもついに全滅してしまった。なぜかはわからないのであるが。
ところで、結婚披露宴の兄弟模様の緊張感は、ヨシノボリやギギのいる空間の緊張感にそっくりなような気がするのは、無言だけではあるまい。