42. 待望の三斗小屋温泉と那須岳縦走

   〜一人山旅に 良き山友とのめぐり合い〜

あなたは人目のお客さんです


 那須岳・峰の茶屋跡避難小屋から見た隠居倉〜熊見曽根〜朝日岳方面


◆ 三斗小屋温泉に浸かりたくて

 4〜5年前、山グループの那須岳縦走の計画があった。よんどころない用務で参加できなかった。帰った仲間のその時のみやげ話にとても魅力を感じ、いつかは行ってみようと心に決めていた。なかでも秘湯三斗小屋温泉はどうしても訪れてみたかった山である。
 前もって、三斗小屋の温泉宿の一つ「煙草屋」さんに予約を入れておいた。夏の全国的なゲリラ豪雨が続く不安定な天候も、出発予定の9月10日の前には完全にあがり、暫くの秋晴れが約束された。幸先がよかった。 自宅朝6時、関越・磐越高速道から東北道白河インターに向け出発した。

◆ 那須連峰周辺、快晴また快晴 

 白河インターを9時に通過し、下道から那須高原有料道路を経て登山口の峰の茶屋9時半に到着した。広い駐車場に降り立ったら眼前に荒々しい朝日岳の岩峰があおぐような角度で飛び込んできた。ロープウエイ山頂駅も手にとるように見える。周りは一点の雲さえない快晴だった。眼下には黒磯の町なのか、その広がりが手に取るように見えている。まさに快晴のなかの快晴のごとし。



 左 峰の茶屋駐車場からの朝日岳 / 右 峰の茶屋避難小屋中間点からの茶臼岳 

◆ 道不案内に親切なガイドを得る

 9時50分出発。陽は高くかなり暑い。中高年者、なかでも夫婦連れの姿が特に目を引く。遅い出発を気にしながら歩き始めたら、年恰好が同い年くらいのスマートな紳士スタイルの一人と並んで歩く形となった。単独で初めてのコースで先行き不安もあって、問わず語りに話かけると親切な答えが返ってくる。茨城県から朝7時に家を出、下道を来てこの時間になった。毎年何回かこの山に足をはこんでいて、今日は南月山を登って別ルートで元の駐車場に戻るのだという。
 山形の月山がこの周辺にあるのか(?)といぶかしく思った。「南月山」が那須の一角に存在することすら知らなかった自分を、那須連峰のいくつかのルートを親切にアドバイスいただいた。結局、峰の茶屋避難小屋を過ぎ、茶臼岳に向かう自分と南月山に向かう分かれ道までご一緒いただき、別れ際にはその方の地図までいただくことになってしまった。お互いに「お気をつけて」と声を交わしてお別れした。今日の快晴のごとく、なんともすがすがしい人だった。きっともう会うことはないであろう。



 左 茶臼岳山頂の噴煙 / 右 茶臼岳山頂の鳥居と奥の院 



 左 茶臼岳山頂の奥の院 / 右 茶臼岳山頂の那須嶽神社鳥居 


◆ 那須・朝日岳〜熊見曽根〜隠居倉 

 ひとり身となって茶臼岳に向かう。途中ロープウエイーから登ってくるにぎやかな若いグループが沢山いた。なんとも軽いいでたちが気になる。しかも山頂駅から聞こえてくるマイク放送も興がそがれてしまう。ただ山頂からの360度のパノラマ眺望だけが救いだった。
 早々に退散してもとの峰の茶屋避難小屋に戻る。ここはまったく一本の樹木もなく、茶臼岳から朝日岳へかかる尾根筋でやや鞍部となっているところに避難小屋が建っている。風の通り道となっていて、その強風は遭難者さえ生んできたとのこと。昔、硫黄採掘の牛がとおった道だったとか。この山道を牛に荷を担がせてどうやって通ったのだろう。いまは牛守の記念碑が面影を忍ばせてくれていた。

 

 左 峰の茶屋跡避難小屋 / 右 避難小屋に並んで建つ牛守護碑

 避難小屋から那須・朝日岳への道はもろい岩肌のやや危険な道だった。確かに強風だったらなら危なそうだ。そのためしっかりと鉄柱を打ち込んでクサリが取り付けてあった。これにすがって風をよけるのであろう。風の心配はまったくなく見晴るかす眺望が思う存分楽しめた。朝日の肩からは、中高年で大賑わいの1,896Mの朝日岳山頂では記念撮影すらままならない込みようだったが、続く熊見曽根〜隠居倉と続く尾根道は静かでほとんど一人旅。のんびり、ゆったり花を愛で、眺望を存分に楽しむことができた。


 尾根ラインに続く緑のじゅうたん


◆ 待望の三斗小屋温泉

 1,819Mの隠居倉ピークを400Mほど下ると温泉神社、そして二軒だけの湯宿、三斗小屋温泉へとたどり着く。午後2時、予約の「煙草屋」へとあがった。玄関横には、二本のパイプからもったいないほどの温泉がかけ流しに流れ落ちている。宿内の洗い場には三つの蛇口から、水で薄めた泉湯が24時間流れ、使い放題だった。
 早速待望の露天風呂に浸かる。露天風呂は裏のちょっと高台にあって、三倉、大倉、流石の三山が向かいに一望できる絶好の位置にある。たまたま一緒に入っていた人が、昨日、三つの山を縦走し、今日は峰の茶屋駐車場から朝日岳〜清水平〜三本槍岳〜大峠を経てこの温泉に来た。ゆっくりと5時間ほどで着いたという。いろんなコースがあるんだなあと感心する。同じコースを帰るよりこのコースも悪くない。
 このおじさん、よく聞くと66歳で小生とおない齢ではないか。埼玉県から来た人でしょっちゅ来ているのだという。すっかり意気投合して、夕飯時には席をならべ、お互い好きなアルコールも入って話がはずみついつい宿の人に催促を受けるほど。しかも三度の露天風呂が偶然いずれもご一緒。星空を見上げながらの楽しい語らいとなった。 
 夕方、夜、朝方と秘湯の露天風呂に三度とたっぷりつかり、まさに至福の一宿であった。

 

 左 流れ放題の温泉 / 右 露天風呂から見る三倉山に沈む夕日

◆ 大峠〜三本槍岳〜清水平〜朝日岳の尾根漫歩を楽しむ

 三斗小屋温泉宿の一夜で意気投合した”おじさん”のアドバイスで、前日のコースを戻る予定を変更。大峠を越え、那須最高峰の三本槍岳を踏み、清水平〜朝日岳を通って峰の茶屋跡避難小屋を経て戻るコースを行くこととした。三斗小屋から大峠を辿る人は少ないが、大峠を詰めた後、その先の尾根ラインと大パノラマの展望は何物にも変え難いとの話を聞いて、矢もたてもたまらず賛同したのだった。
 三斗小屋を朝7時にスタート。すがすがしい朝だった。天気は文句なし。やっぱりこのコースを行く人は少ない。一人だったが、すがすがしい林の中の下り道は快適な気分だった。途中三つほどの大きな沢を越えて少し急登すると天井が抜けたような見晴らしの開けた大峠だった。  この峠は、標高1,420Mほどに位置し、左の三倉山〜大倉山〜流石山からこの大峠で合流して右の三本槍岳へと向かう長大な尾根縦走ラインの途中地点であった。また福島県の野際からの三斗小屋へ向かう合流点でもあったようだ。傍らにいくつかの仏像が置かれ、昔旅人が通った様子が偲ばれた。



 左 大峠の標柱(左手は流石山方向)  / 右 合流点に立つ仏像

 大峠から三本槍岳への道はいくつかのピークの続く、標高差約500Mのアップダウンの尾根道だ。目を覆う低木すら一本もなく、熊笹と草花の天空の草原を歩く感じ。行く正面には目指す三本槍岳が屹立、左手に急峻な旭岳、右手には昨日の茶臼岳が間じかに白煙を上げているのが見える。振り返れば、大峠山〜流石山〜大倉山〜三倉山への縦走路が雄大に見渡せる。まさに大パノラマの展開だ。ひとり思う存分の稜線漫歩を堪能した。



 左 ウメバチソウ  / 右 エゾリンドウ

◆ 思い果たせた那須岳縦走

 尾根道を思う存分満喫し、最高峰1,916Mの三本槍岳にたてば、気持ちよい涼風が迎えてくれた。今日一番乗りのようだ。最高点山頂からの眺めはまた格別だった。しばらくして中高年の男女のパーテイがいく組かやってきた。にぎやかになるだろう。一足お先に山頂をあとにした。
 この夏最後の山行きが、念願の那須岳そして三斗小屋温泉となった。先月の蝶ケ岳〜常念岳縦走は雨で途中撤退、以来全国的な雨続きで、このたびも危ぶまれたが、素晴らしい天気に恵まれ、しかも道中、二人ものいい山友にめぐり合い、秘湯の温泉を心いくまで満喫、まさに満足の山旅であった。(H20年9月16日記)

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