11. 初めての南アルプス鳳凰三山

─ 奇岩に映える青松と白砂の中を歩く ─

◆ 南アルプス初めての挑戦

 山仲間、夏恒例の縦走登山は今年、南アルプス鳳凰三山であった。この齢になるまで、恥ずかしながら南アルプス方面、いや松本以南の山々は歩いたことがなかった。待ち望んでいた山である。この8月5〜7日、その日程を無事終えることができた。
 ちょうど一年前、北アルプス縦走で自分の不注意のケガで仲間に迷惑をかけたパーテイである。つい2ケ月前には、巻機〜朝日岳縦走でもえらい越後のヤブこぎにダウン寸前の前科があり、この山行きも一抹の不安はぬぐえなかった。二度あることは三度のたとえもあり迷惑はかけられないとの気持ちだった。そんな不安を持ちつつも、このコースはこれが最後と意を決しての挑戦だった。

◆ 静かな一軒宿、青木鉱泉

歴史を感じさせる青木鉱泉  突然発生した台風12号が、早々に四国から近畿の日本海に抜け、台風一過となった8月5日、一行5人は朝8時半長岡インターを韮崎目指して出発した。
 台風の影響か、道中の山なみがとてもくっきり眺められ見ごたえがあった。その上、山ベテランのガイドが受けられ興味がつきない。320`余りの高速も午後の1時過ぎには目的地の青木鉱泉に到着。
 韮崎インターから1時間。かなり奥深い山中の一軒宿だった。標高1,150mと標示があった。宿は民家風で柱や梁がビックリするほどでかく、厚く大きい引き戸やテーブルの板が厚い一枚もので作られている。昔の豪農の館づくりを思わせる立派なつくりに感心した。豪華な一枚板の欅づくりと思われる食堂テーブルで、明日の壮途を願ってまずは生ビールで乾杯。
 ここで、越後では見たことのない珍しい花を見ることができた。鮮やかな朱色をした花で「フシグロセンノウ」といった。この山もきっといい花にお目にかかれそうだ。さい先のいい発見だった。

フシグロセンノウヤナギラン

フシグロセンノウ     ヤナギラン
 

◆ 樹林の中、結構きつい中道コース

 青木鉱泉からの登りは、中道コースとドンドコ沢の二つのコースがある。ドンドコ沢コースはきついと聞かされていた。幸いかな(?)中道コースだった。6日朝、まずまずの天候の中、6時35分青木鉱泉を出発した。
 鉱泉宿直下の釜無川を渡って対岸の林道を40分ほど進む。うっそうとした原生林をゆっくり歩くのもいいもんだ。遅い出発で誰にも会わない。1時間ほど前に1組のパーテイが行ったきりだ。やがて林道も追いどまりとなって登りとなった。陽は照っているが幸い深い茂みで直射日光は避けられ助かった。一帯は唐松の植林帯のようだ。どこまでも続いていた。
 ドンドコ沢の登りは平均斜度30度もあるといい、そのきつさは十分聞かされていた。どっこい、中道コースも半端ではなかった。結構急坂だ。それに期待していた高山の花があまり見られず、疲れは倍にも感じられた。ようやく中間点の大きな岩、御座石とおぼしき地点で見事なヤナギランの群生に出っくわし疲れを癒してくれた。

◆ 白砂と奇岩累々の絶景…薬師岳山頂

 中間点の御座石を過ぎても樹林と急登は続いた。しかし青木鉱泉を歩き始めて5時間余、樹林が突然消えて青天井が丸見えになった。とたんに地層が変わって白砂の地面と累々と重なり合う巨岩石が目に飛び込んできた。もうすぐ山頂であることを知った。11時50分薬師岳山頂に到達した。

薬師岳山頂      薬師岳山頂
薬師岳山頂


 黙々と樹林帯を登り詰め到達した青天井の空白と見晴らしのよさ、白砂に巨岩とハエマツの緑が絶妙のバランスとコントラスで何とも言えない安心感を与えてくれた。眼前には雄大な北岳がどっしりと構えていた。今夜は薬師岳小屋泊である。

◆ 薬師岳〜観音岳〜地蔵岳、お花と眺望の縦走

 山の第2日目(8/7日)、薬師岳小屋を6時に出発した。昨日は夕刻から雷と雨で遠くの眺望がいま一つだったが、今朝は見晴らしがいい。薬師岳山頂からは、雄大な北岳は変わらず、仙丈ケ岳、甲斐駒ケ岳、すぐ近くに間ノ岳、農鳥岳、遠くは赤石岳までも見えている。さらに遠く南には富士山も確認できた。東に転ずれば八ケ岳の峰峰が大きく見えている。いずれもまだ歩いたことのない山並みで興味がつきなかった。
 山頂の縦走路は、独特の白砂で敷き詰められている。そこにまた巨岩が景観をなしており、足元にはタカネビランジの花が次々と咲いていた。水分も無さそうな砂れき地によく耐えて生きているのが不思議なくらいだ。岩陰に一輪の枝に花をつけているものもある。飛んできた種がどうやって根付いたことだろう。

 タカネビランジタカネビランジ トウヤクリンドウ
左タカネビランジ / 右トウヤクリンドウ


 薬師岳〜観音岳〜地蔵岳の縦走路は多少のアップダウンもあるがそう難儀な道ではない。時間もたっぷりあって余裕をもったのんびり探勝コースとなった。鳳凰三山最高峰2,840mの観音岳では360度のパノラマをゆっくり満喫した。  

◆ 圧巻、地蔵岳の巨大オベリスク

 何と言っても鳳凰三山の圧巻は巨大オベリスクだろう。地蔵岳の山頂に巨大な石塔が両手を合わせたように屹立している姿は誰しもが畏敬をもって眺めることだろう。下から巨岩を幾重にも積み上げ、頂に巨大オベリスクを完成させた自然の力に驚きを感じてしまう。
 観音岳からの地蔵岳   オベリスク
左地蔵岳 / 右オベリスクの遠景オベリスクの巨頭

 オベリスク  オベリスクに立つM君
オベリスクの巨頭 / オベリスク頂きで万歳のM君


 来たついでに、オベリスクの取り付きまでみんなで登った。根元までは簡単に登れる。眺めも絶景である。しかしその上約20数メートルは、ザイルが取付けられているが一般者には難しかった。記念に、絶頂に立ちたかったが年に免じてここまでとした。ベテランのM君は、10分ともかからず、いとも簡単に絶頂に立っていた。「眺めは最高だった」との感想。

◆ 鳳凰三山縦走、成功裡に成就

 地蔵岳、オベリスクで十分堪能して10時30分、鳳凰三山を後にした。帰路はドンドコ沢の下りコースをとった。途中鳳凰小屋で小休止の時、「今朝この下りコースで一人が滑落したため救援隊が出動している。昨夜の雨で滑りやすい。十分気をつけよ」との注意があった。急坂を下りにくだったが、後半は雷と雨で確かに滑りやすい状況ではあった。かなり下った地点で、今朝の遭難者の救助隊の一行に遭遇した。滑落した人は女性で、背中に担がれ、がっくりうなだれていた。右の足には支えがしてあり一歩ごとにユラユラゆすられ、痛みをこらえている様子だった。連れの男性をみると一昨日青木鉱泉で宿を一緒にいた男女パーテイだったことに気づいた。しかも同じ新潟県の人。誠に気の毒に思えた。大事でなければいいのだが……。しばらく救助隊の後部についてくだり、午後2時、青木鉱泉に無事到着した。
 夏恒例の縦走登山は、昨年は北アルプス蓮華温泉〜白馬〜祖母谷温泉コースで思わぬ事故でじくじたる思いだったが、今年はどうにか無事、楽しく完遂することができた。もう何回参加できるだろうか?仲間にいつまで迷惑をかけず参加が許されるか。もう一年は実行したい。還暦・人生3年の夏に乾杯!

 風雪耐える松懸崖のハエマツ  
懸崖のハエマツ / 風雪に耐える杜松

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