8. 鋸山・隠れたコースを歩く

─ コツコツと踏み跡整備に汗する人がいる ─

あなたは人目のお客さんです

◆ あまり知られていない鋸山コース

今年2度目の鋸山を目指した。年明け以来忙しさやわずらわしさの連続だった町内会やら退職者の会などの一連の仕事も一段落したこの時(5/9日)、思い立って出かけてきた。山はすっかり青葉の季節になっていた。
 実は、つい先だって職場の山仲間から、鋸山にめったに人の入らない踏み跡コースがあるという興味深い話を聞いた。鋸山は誰でもがだいたい辿る一般コース、即ち栖吉町から花立峠コースが一般的でいつもこのコースをとってきた。ところが、同じ栖吉の車道追いどまりから別ルートの踏み跡コースがあるというのだ。ずーっと昔あったらしい山道を最近になって篤志家が手入れしたらしいとのこと。変わったルートもいいではないかと、そんなことに興味が湧いて、折角来たついでと今日はそのルートの探索もかね辿ってみたくなった。

◆ はじめはしっかりした踏み跡

 日曜日のせいか、追いどまりの駐車場には登山者なのか、山菜取り人なのか既に両脇が満杯に近かった。少し離れた手前に漸く駐車できた。登り口は駐車したすぐ左脇に山菜取り道かと思われる踏み跡があった。はたしてこれがその道なのかとやや不安があったが、決断して辿ることとした。時間は7時35分だった。
 山菜道なのか、山頂につながる踏み跡道なのか不明のまましばらく進んだが、細いが踏み跡はしっかりしている。地図を取り出すが全く登路は示されていない。雪消えから入った山菜取りの踏み跡なのだろう。仕方なくコンパスで鋸山方向だけはしっかり確定して進むこととした。

 40分ほど進んだところで3段になって流れる小さな滑め滝があった。雪溶け水の適当な水量があって感じがよかった。夏にはおそらく枯れ滝となるのだろうか。さらに進んだ所がやぶで湿地。昔は田んぼでもあったのだろうか。ところがここで踏み跡がぷっつりと途切れてしまった。真っ直ぐは深いやぶでとても進めそうもない。右手は急な斜面で人の入った様子もない。左手も斜面で踏み跡らしきものも感じられない。しばらくあたりを探すがわからず、ここで撤退かとも思ったが、最後に左の緩そうな斜面を登って見るとかすかな踏み跡らしきものがあった。どうにか見つけることができた。
 この後何度か踏み跡を見失うことがあった。雪消え後の深い落ち葉のため少ない踏み跡には人の歩いた様子が感じられない。ここまで来ると山菜取りも多くは来ていないようだ。

◆ 山道整備の苦労がしのばれる

 深い落ち葉のなか、かすかに人が歩いた跡と思われる落ち葉がわずかに起き上がっているようなところを注意して進んだ。しかし、前年であろうか、やぶをナタで刈った跡がはっきり残っている。深い笹やぶでは明らかに道を拓くために刈り払われていた。2メートル余りもある笹ヤブである。お陰で進みやすかった。今年のナタ目らしきものもあった。この踏み跡道は、かって地元の山仕事の道でもあったのだろうか。時代の変化で山仕事が廃れて随分時間がたった。踏み入れる人もなく廃道同然となっていたのではないだろうか。おそらく大変な作業であったであろう。登りはじめて、山菜道らしいしっかりした踏み跡は約1時間ほどでなくなり、後は篤志家が刈り払った刈り跡を進むだけ。ほとんど一般登山者はいまのところ皆無かと思われる。
 ヤブのところどころに几帳面にも赤い布切れが道しるべとして着けられていて、その後は迷うことなく進むことができた。まさに先人の苦労がこれなのかとしみじみ感じいった。

◆ 最後は急峻な尾根登り

 かなり進んで幅のやや広い沢に降りた。一番最後の沢のようだ。鋸山の直下かな?と思われた。2つの沢が右の壁から下りていて2つとも小さな滝になっていた。滝を見ながら沢を越え左手に上がって尾根登りとなった。
 ここからが本当の登りであった。道はナタで必要なところは刈り払われている。しかし急峻だ。40度近くはあろうかと思われる。木につかまりながら高度を上げた。あまりの急さにこの尾根は冬、山頂直下の尾根を下って、風谷山へと向かう時降った尾根ではないかと思うほど急峻だった。急登をおよそ40分も続いただろうか、東に向かっていた尾根が右手南にややルートを変えた。なおも急登を続けたら真木林道車道から鋸山頂へのコースの電波塔手前にひょっこりと出ることができた。ガレ場にロープが張られている所であった。後は5〜6分で山頂だ。山頂は11時30分。途中、何箇所か踏み跡探しに手間取ったり、一時はあきらめて山菜取りに切り替えかなりロスタイムがあって結局3時間を費やして辿り着いたことになる。
 このコースは、風谷山を左にし、右に花立と鋸山を右手にしてその中間を鋸山頂直下まで進み後は一気に山頂を目指すコースと思われる。途中までは展望は効かないが、たっぷり2時間以上は要し、小さな滝あり、適当な登り、そして笹ヤブ道、横まき道と変化に富み結構歩きでのあるコースで面白いコースだった。
 少し時間の取れる人にとってはこのコースを登りに使い、山頂からの下りを一般コースで帰る周回コースとして楽しめるのではないだろうか。

鋸山の水芭蕉

  ◆ いずれ一つの登山道となろう…先人の労忘れまい

 今はまだ人の足跡の少ない整備されたばかりの道だが、やがて人に知られてくるだろう。いずれ踏み跡もしっかりしてポピラーな一般登山道となろう。でもひっそりと隠れた存在のコースであってもいい。あまり荒らすことなく静かなコースであってほしい気もする。
 山頂はこの日も賑わっていた。いつものコースでの帰路、年配者やグループ、夫婦ペアなど大勢のパーテイが山頂を目指していた。長岡では本当に親しまれた山の感じだ。コースの整備や山野草を熱心に守ろうとする姿が随所に見られいつも感心させられる。隠れたこの踏み跡も、きっと山を愛する熱心な篤志家の苦労によるものであろう。もしここを通ることがあったなら、先人の苦労を思い、山野草を慈しむごとく守っていくならきっと本望であろう。新しい道の開拓ご苦労さんでした。本当にありがとう!
 

5月の鋸山のすみれ

5月の鋸山の黄すみれ

 右上 5月の鋸山の水芭蕉
 
 右  5月の鋸山の黄すみれ
 
 左  5月の鋸山のすみれ
 

 

 

 

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